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第2話

ラインフォード一家がショッピングモールに到着するとそこはまさに地獄絵図だった。

ショッピングモールの出入口は内側からショッピングモール内の物で作ったバリケードによって塞がれているのだ。

出入口だけではない、周囲の入れそうな所は全て塞がれており、その周辺にショッピングモールに逃げ込もうとしている人物が群れを為している。


そして、その群れに反応してゾンビがやって来る。

ショッピングモールの出入口に固まっていた集団もゾンビが集まってきていることに気付くと蜘蛛の子を散らすように逃げ出すが、すでに周囲には大量のゾンビがおり、このゾンビ達を潜り抜けるのは至難の業だった。

実際に何人もの人達が強引に逃げ出そうとした結果、ゾンビの餌食になっている。

ジャックはそんなゾンビの群れを車で強引に突き進みながら、ショッピングモールの周辺を見回ってみるが、入れそうな場所はない。

ゾンビから逃げ惑う生存者が車に集まりだしており、手遅れになる前に引き返すべくかとジャックが考えていると、ショッピングモールの2階部分の窓が開き、数人の人影が現れるのが目に入った。

数人の人影は梯子を1階に下ろして外に向けて拡声器を使って叫んだ。


「この梯子はゾンビが集まり次第回収する!助かりたければ走れ!」


拡声器の声を聞き、散り散りに逃げていた人々が一斉に梯子に集まりだす。

ジャックは舌打ちをするとハンドルを強引に切り、クラクションを鳴らして集まる人々を強引に退かして梯子の横に車を停める。


「ソフィ!先に行け、早く!」


「パパは?」


「後で行くから早くしろ!」


ゾンビは動きが遅く、梯子まで距離がある。

だが、問題は我先に梯子に登ろうとする群集だ。ジャックが車で強引に突き進んだことに怒りを感じてる者も少なくなく、中にはソフィの服を掴み梯子から引きずり降ろそうとする輩までいる。

ジャックはソフィの服を掴んでいる男を殴り飛ばすが、それが群集の怒りを余計に買ってしまい、ジャックに群集が暴力を奮いだした。

ジャックはすかさず持っていたショットガンを空に向けて撃つ。すると群集はピタリと静かになり、ジャックから距離をとりはじめた。


「ジャック!」


「マイア!先登れ!」


「でも…」


「いいから早く!お前がいない方がこっちも動きやすい!」


ジャックが群がる人々をショットガンで脅しながら叫ぶと、マイアがその気迫に圧されて梯子を登り始めた。

ジャックがマイアが登りきったことを確認して安堵していたその隙を狙い飛び出してきた一人の男がジャックに殴りかかった。

ジャックはその衝撃で持っていたショットガンが手元から落とし、地面を滑るようにジャックから離れていく。

すると、ジャックの武器がなくなったのを見計らって群集がジャックに襲いかかった。


「落ち着け!一人ずつ冷静に動けば全員助かる!」


上で梯子を下ろした人物が焦ったような声を出すが、既に梯子下の群集は誰一人として冷静な者はいない。

強引に梯子を登る人もいるが、大半が下から伸びてきた手に掴まれて再び地面に落とされていた。

その間にもゾンビは近づいてきており、一番外側にいた人物がショッピングモール内に入るのは無理だと判断したのかジャックが乗り捨てた車を盗み走り出した。

それを皮切りに群集がチラホラと梯子を諦めて逃げ出すが大半はまだ梯子周りで暴れ回っている。

だが、近付いて来たゾンビに群集の一人が噛まれてようやく自分達の置かれた状況に気付いたのか梯子から立ち去り始めたが既に周辺はゾンビが大量に蔓延っていた。


「もうダメだ!梯子上げろ!」


「まだ、ジャックが!」


「奥さん諦めて!」


「…パパ死んじゃうの?」


「えっ、いや、子供は卑怯だろ、チクショウ。もう少し待つから早くしろ!」


既に群集もほとんどいなくなり、残された打ちのめされたジャックは痛む体に鞭打って梯子を登り始めた。

だが、ゾンビがすぐそこまで迫っており誰が見ても間に合わない。

現に梯子を登るジャックのすぐ後ろには一体のゾンビが大きく口を開き、今にもジャックに噛み付こうとしていた。

ジャック自身が半ば諦めかけていたその時、一発の銃声と共に後ろのゾンビの頭が撃ち抜かれた。

ジャックが驚いて銃声のした上方を見上げると年老いた男性が銃を構えているのが見えた。


「何を呆けておる。ワシも援護しきれん」


老人のしがれた声を聞き、ジャックは慌てて梯子登りを再開した。

老人はその間にジャックを襲うゾンビを的確に撃ち抜いていき、ジャックは無事ショッピングモール内に入ることができた。


「パパ、パパ!」


ジャックが寝転がって息を整えてる所にソフィが飛びついてきた。

ソフィの頭がジャックの鳩尾に命中して強烈な痛みに襲われるが、それを堪えてジャックはソフィの頭を撫でる。

マイアが心配そうな顔で駆け寄ってくるのをジャックは安心させるように笑いかけた。


「あんさんも無茶しよる」


先程助けてくれた老人がジャックに声をかけてくる。

ジャックが軽く礼を述べると、老人はそれに返事をすることなく、窓の外を見るように言ってきた。

ジャックが老人に従って窓から外を見ると、そこには大量の逃げ惑う人々がいた。

見ていると一人また一人とゾンビに捕まっていく。既に梯子は回収され、あそこにいる人々が助かる可能性は限りなく低いだろう。


「あれ、全部お主のせいじゃ」


老人が何の躊躇もなく、世間話でもするかのようにそう言った。

老人のさり気ない一言だが、ジャックの胸には深々と刺さる。


「家族のためといえば聞こえがいいが、あそこ見てみぃ。君の娘さんと同じぐらいの女の子と父親がおる。あれは保って5分かの」


「………何が言いたい?」


「ワシはあんたがわかっててやったのか気になってな。

全員は無理だったかも知れんが君が余計なことしなければ助かった命は多くあったはずじゃ。


おや、自己紹介がまだじゃったな。

ワシはケネス・カーター。退役軍人だ。

ワシがもう少し早く戻っていればもっと大勢助けられたかもしれんな」


ケネスはジャックに握手を求めるように手を伸ばしてきた。

ジャックはそれを戸惑いつつも手を握るとケネスはニコッと笑った。


「よろしく」


ケネスの言葉にジャックは返すことができない。マイアは近くで信じられないものを見るようにケネスを見るだけで、ソフィは怯えてジャックの腹に顔を埋めている。


「そう虐めてやんなよ、爺さん」


握手をしたままどれだけ固まっていただろうか。

今の声が聞こえてこない限り永遠にこのまま動けなかったのではないかという錯覚に陥るほどジャックは動くことができなかった。

ジャックが声の主の方を見ると、柄の悪そうな男が一人壁にもたれかかるように座っていた。


「俺としてはこれ以上人数が増えても困るんでちょうどいいぐらいだ。よろしくな、新入り」


「…これ以上?」


ジャックはそこで周囲を見渡してようやく気付いた。

見える範囲だけでも大量の人間がショッピングモール内にいるのだ。

下手したらこのショッピングモールが営業してる時より多いのではないか。


「そういうことだ。

今このショッピングモールは飽和状態。とっとと立ち去った方が身のためだぞ」


「なら、お主が出て行けばよいじゃろ」


「言うねぇ、爺さん。

ぶっちゃけそれも一つの手だ。あのクソ野郎に指図されるのもムカツクしな」


「…クソ野郎?」


「新入りも直にわかる。その内、向こうから何か言ってくるぞ」


柄の悪い男の言葉を不思議に思っていると、ショッピングモールに設置してあるスピーカが異音を発し始めた。


「…ほら、来た」


柄の悪い男が不機嫌そうにそう言った。

スピーカからはガーガーという音が止むと男の声、恐らく柄の悪い男がクソ野郎と言った人物の声が響いてきた。


『ようこそ、楽園へ』


それはスピーカを通してでも透き通るような声だった。

ジャックはこの男について何も知らないが、恐らく現在このショッピングモールの頂点に立つ人物であることだけは疑いようもない。


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