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第18話

南エリアを拠点としているレジスタンスの男女。

この二人は牧場内でトラックを停めて、それぞれ運転席と助手席に座っている。

トラックの周囲にはバイクに乗りながら参加者を殺して回る者が行き交っており、二人はトラックの中で息を潜めてやり過ごしていた。


この辺りは牧場の北側に位置する場所でバイクもゾンビも数はちらほらと見かける程度だが、時間が経つにつれその数も増えている。

襲われるのは時間の問題だ。

逃げたいのは山々だが、仲間のブライがこのトラックに乗ったメンバーを引き連れて物資の調達に出て行ったきり帰って来ない。

そんな状況に業を煮やした運転席に座るレジスタンスの男が銃を握り締めて外に出ようとした。


「ちょっ、どこ行く気?」


助手席のレジスタンスの女がトラックを降りようとする男にそう声をかける。

男は顔を向けるが、手はトラックの扉を掴んだままだった。


「このままここにいても埒が明かない。ブライを捜しに行ってくる。あれでも、レジスタンスのリーダだ。見捨てるわけにはいかんだろ」


「バカ言わないでよ!外の状況わかってんの?」


「わかってるが、このままここにいたら事態は悪くなるだけだ。運転は出来るな?30分経っても帰ってこなかったらお前だけで逃げろ」


「か、勝手に話を進めないで!」


女性のレジスタンスが悲痛な叫びを上げると、男性のレジスタンスが柔らかい笑みを浮かべ、トラックの扉を開きながら言った。


「安心しろ。必ず戻ッ、イッ!」


男の言葉はトラックの扉を開けるのに使った腕に襲った痛みで最後まで紡がれることはなかった。

恐る恐る、男は痛む腕を見ると、そこには自分の腕に齧り付くゾンビの姿がある。

もし、扉を開ける前にサイドミラーなどで外の様子を確認すれば、すぐ外に一体のゾンビがいることに容易に気付けただろう。

だが、男は助手席を向いたまま後ろ手で扉を開けてしまった。

当然だが、トラックの扉は外開きのため、男の腕は外に突き出る形になる。

ゾンビからしたら目の前に突如としてご馳走が現れ、本能に従いそのご馳走に歯を立てただけだ。


「………マジか」


ゾンビに腕を噛まれた当の本人は自分でも驚く程に冷静だった。

未だに腕に噛み付いているゾンビの頭に逆の手を使い、銃口を向けると間髪入れずにゾンビの頭を撃ち抜いた。

撃たれたゾンビは腕を離してその場に倒れ、男は自由になった腕をトラックの中に引っ込め、開いていたトラックの扉を閉めた。


「撃つなら、撃てよ」


噛まれた傷口を冷静に眺めながら、助手席で銃口を男に向けている人物にポツリと呟くように言った。

女は男の言葉に驚いたような表情になるが、すぐにキッと顔を引き締めて、震える手で持った銃を男の頭に狙いを定める。

男は黙って来たるべきその時を待っていたが、女は中々撃とうとしない。

黙ったまま銃を突き付け、黙ったままそれを受け入れてるため、トラック内に静寂が訪れる。

しばらくの沈黙の後に女は震える手をゆっくりと下ろした。


「撃たないのか?」


「わ、私には撃てない」


「………言っとくけど、自殺する気はないぞ。臆病な俺は自分を自分で撃つことなんてできない。

だが、このまま放っておけば俺はいずれゾンビになる」


「それでも、私には撃てない。ゾンビを撃つのと意思のある生きた人間を撃つのは訳が違う。

…ましてや、あなたを撃つなんて」


男は困ったように頬を掻く。

まさか、撃つことを渋られるとは考えてもいなかったのだ。


「………噛まれたらゾンビになると決まったわけじゃないしな」


「そう、だね」


男が乾いた笑いを向けるが、女は暗い表情のままだった。



















































ブライ・ハウアーは命からがらトラックまで辿り着いた。

トラックに片手をつき、荒くなった息を整えようとするが、周囲にはゾンビやバイクに乗った集団が休む暇を与えずに次々と襲い掛かってくる。

一緒に行動をしていた仲間達は既にブライを残して全員がその命を散らした。

この牧場は既に戦場と言っても変わりない場所となっている。こんな所にいたら命が幾つあっても足りない。


ブライは今すぐここから脱出すべく辿り着いたトラックの助手席にあたる部分の扉を力任せにバンバンと叩いた。

トラック内で待機させている仲間に合図を送ったのだ。

ブライが去ってからかなりの時間が経過してるため、バカ正直に待っているかどうかは半々だったがこうして待っていてくれたことに心温まる気持ちだった。


だが、そんな気持ちも長くは続かない。

合図を送ったのにも関わらずにトラック内からの反応がないのだ。トラックは大きいため、窓が高い位置にあり中の様子が見えにくい。


急な嫌な予感に苛まれたブライが助手席の扉を開けると、同時に血生臭い空気を感じる。

中は助手席にぐったりとしたまま動かない同じレジスタンスのメンバーの女性と、彼女に覆いかぶさるような体勢の一体の男性のゾンビがいた。

ゾンビは女性の腹に顔を埋めるようにしているため顔を見る事はできないが、クチャクチャと咀嚼音のような物が聞こえる。

ぴくりとも動かない女性はとても生きてるとは思えず、腹からは大量の血が溢れ出ていた。


短い間だったとはいえ、レジスタンスとして一緒に活動していた仲間がゾンビに食べられる姿は見るに耐えない。

だが、現実はブライに容赦することなく事実だけを突き付ける。

扉が開いたことにより、腹を食い散らかしていたゾンビが顔を上げたのだ。

その顔はゾンビ化により酷く歪んでいるが生前の面影が残っている。


その顔はブライにとって見覚えのある者だ。同じレジスタンスの男性だった。

少し前まで一緒にいた人物がゾンビ化するというのは言葉には言い表せない程の衝撃だった。

さらに、そのゾンビが同じ仲間を食べているのだ。

思わず吐き気を催してきたが、理性のないゾンビはブライが吐くのを待ったりしない。

ゾンビは威嚇するように口を大きく開き、威嚇するような金切り声を出してきた。


「ふ、ふざけやがって。ふざけやがって。ふざけやがって!」


ブライが叫び声を上げると、湧き上がる感情を目の前のゾンビに銃弾としてぶつける。

連射性に優れた銃でゾンビに休むこと無く銃弾を撃ち込む。

最初の一発が既に頭を破壊していたので、それ以降に放たれた弾は蛇足で、物資を節約しなければならない現状では褒められる行動ではない。

それはブライ自身もわかっているが、自分を抑えることができなかった。


その行動は弾切れを起こすことによりようやく止まり、ブライは少し冷静になった頭で現状を確認する。


「ハァハァ…俺は死なないぞ。死んでたまるか」


ブライはブツブツ言いながらトラックから仲間の遺体を降ろしてから、トラックに乗り込んだ。

ブライは騒ぎが起きる前に見つけた牧場の地図を広げて、脱出経路を探し始めた。


「ゾンビは西から、あのバイク集団は東から………となると、北と南。ここは北寄りか。北側には出口は1つしかないがここらそう遠くない。むしろ、かなり近い」


現状を確認したブライが顔を上げると、見える範囲に牧場北側の出入口があった。

予想通り、ゾンビもバイクの数も少なく脱出するにはもってこいだ。

ブライは早速トラックを発進させて、出口を目指そうとしたその時、同じ出入口を使おうとしていたのか別のトラックが猛スピードで向かっていくのが目に入った。


それだけなら何も問題はない。

問題はそのトラックが事故を起こして横転したのだ。

さらに、横転したトラックは今まさにブライが使おうとしていた出入口を塞いでしまった。

北側のただ一つの出入口が一瞬で使えなくなってしまい、ブライも苛立ちを隠せずにいる。


「ふざけやがって!運転できない奴は運転すんじゃねぇよ、ゴミが!クソ!トラックを退かす余裕はない!」


横転したトラックの荷台からは牛が飛び出してくるが、そんなことはブライにはどうでもよかった。

再び地図に目を落として、南側の出入口を探す。


「一番真南にあるのは………管理棟の裏か」


ブライは出入口を確認するとその出入口から脱出すべくトラックを発進させた。


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