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第15話

トラックの侵入口となった出入口とその周辺を担当した警戒組はトラックの音に引き寄せられたゾンビが続々と現れて、苦戦を強いられていた。

今は銃を使わずに対処できているが、ゾンビの数が目に見えて増えており、銃の使用どころかゾンビを牧場に入れるのも時間の問題だろう。


だが、逆側の出入口は真逆の状況だった。警戒組はごく稀に迷いこんできたように現れるゾンビを囲んで撲殺するだけで基本的には何もせずに突っ立ているだけだ。


「………暇だな」


警戒組の一人がそうポツリととそう漏らすのも無理はない。

周りの警戒組も口にはしないが同感だった。反対側は押し寄せるゾンビで決壊寸前だということを知らずに欠伸をしていると、遠くから大量のエンジン音のような物が聞こえてきた。

これが牧場内からなら作戦が終了したのではと思えるが、音は外からこちらに近づいてくるように聞こえてくる。

音のする方に視線をやれば道の先から大量のバイクに乗った集団が近づいてきているのが見て取れた。


「なんだ、あれ?生存者か?」


「俺達と一緒でここの牛とかを狙ってるんじゃないか?」


そんな会話をしてる間にもそのバイクに乗った集団は牧場に迫っており、その集団もこちらの存在に気付いたのか真っ直ぐと向かってきていた。

警戒組で一番リーダーシップがある人物が一歩前に出てその集団を待ち構えていると、集団もスピードを緩めて目の前でバイクを停める。


「おいおい、ちくしょう。遠目に見た時はもしかしてと思ったが、マジでゾンビじゃない生きてる人間だ」


集団の先頭の人物が軽いノリでそう言うが、警戒組は驚きを隠せなかった。

ゾンビが発生してからまだ数日しか経ってないがショッピングモールを出てから未だにゾンビと動物など以外に動く物を、つまりは生きてる人間を見かけなかった。

警察や軍がどうなったかはわからないが、もう社会が機能していないのは明白だ。


だからこそ、バイクに乗ってるとはいえこれだけ多くの人間が外にいるのを見て、驚くなというほうが無理がある。

だが、バイクが爆音を響かせながら向かって来たせいで目に見えて集まってくるゾンビの数が増えており、警戒組は増えたゾンビのことを危惧していた。


「ハハハッ、すげぇな。あんたらここで何してんだよ?見た感じだと牧場を守ってるようだけど、ここに立て籠もってるのか?」


群がってくるゾンビに危機感を抱いてる警戒組とは違い気の抜けた声を出す先頭の人物に警戒組のリーダーを勤めた男は苛立っていた。


「…あんたらが何者かは知らんが今の状況がわかってるのか?

そのバカでかい音がでるバイクのせいでゾンビがどんどん集まってきてるんだぞ」


「はあ?何を言って………あぁ、なるほど。綺麗な服を着てると思ったらそういうことか。

お前らどっか牧場以外の、それも洗濯か服が十分にある場所に引き籠もってるんだろ?

それで、牧場に食料調達にしにきて、お前らは見張りをしてると」


「?あぁ、そうだけど。お前らもそうじゃないのか?」


「そりゃ、いいや。この程度で狼狽えてると思ったらお前らずっと安全圏でのうのうとしていたのか。

俺達は寝るのも命懸け。毎日毎日どんどん仲間が減っていく。まだ数日しか経ってないが何処かに腰を据えないと、保って一週間ってところだ。


この騒動がここら一帯だけなのかアメリカ全土なのか世界規模なのかは知らないが、警察や軍が機能してるとは思えない。

救助は絶望的だろう。そんな所にお前らと会った。

この辺りは見晴らしも良く、ゾンビの数はすぐに増えるだろうけどまだ慌てるような状況じゃない。


なのに、お前らは大慌て。

お前らの慌てようからして初日から、それも早い段階から引き籠もってただろう。

俺達がゾンビに怯えてビクビクしていた時ものうのうと生きてきたわけだ。


あー、勘違いしないでくれ。別に嫌味を言ってるわけじゃない。ただ、少し相談があるだけだ。

単刀直入に言う。俺達をそこに招待してくれないか?」


先頭にいる男はそこで言葉を終えると警戒組のリーダーを真っ直ぐ見る。

恐らくリーダーとしての返事を待っているのだろうが、あくまでここにいるごく少数の警戒組のリーダーであり、さらに言えば一歩前に出ただけで正式にリーダーとして選ばれたわけではない。

当然ながら集団を招き入れるかどうかの決定権はない。

集団の視線が一挙に集まり、リーダーは困ったように頬をかいてから渋々といった風に口を開いた。


「………あんたらの言い分はわかったが、俺の一存で決められることじゃないし」


「そこをなんとか。な。頼むよ」


「見放すようで後味が悪いが、諦めた方がいい。

俺がお前らを連れて行っても追い返されるのがオチだぞ。

ギリギリのバランスの上で成り立っている所にこんな大人数を受け入れる余裕はない。

あんたらを受け入れることにより、それ相応の見返りがあるなら話は変わるが…なんか、あるのか?」


「そこは、ほら。助けると思ってさ。人命第一。人助けしようよ」


「つまり、何もないと。人命第一ってのは自分の命を確保してからの話だ。悪いな」


「あー………うん。ごもっとも。


実はな、今の俺らは引き籠もるのにめぼしい所を探して回ってたんだ。

いくつが見てきたが、でかい建物は要塞化されてどこもかしこも門前払い。

ここに来たのは偶然じゃない。


牧場なら食料はあるが、武器は少なく、出入口が多くて要塞化はしづらいから、まだ手付かずなのを期待したんだ。

俺達の体力も気力も限界でここがダメならもう諦めてゾンビに特攻でもしようと決めて、それだけの覚悟を持って牧場に向かった。


そしたら、あんたらが居た。

すでにここも先客がいたのかと思ったが、どうもそれにしては出入口の守りがずぼらな印象がある。

話を聞いてみれば、別の所から食料調達にやってきたと」


「………何が言いたい。ここを要塞化するなら勝手にすればいい。別に邪魔しない」


「あんたらが使える物を根こそぎ奪いとった後にか?ふざけんな、こんなだだっ広いだけで何もない所より公園のトイレの方がマシだ」


「………じゃあ、他当たれ」


「さっきも言ったろ、俺達は覚悟を持ってここにきた。とぼけるのはよせよ。もうわかってるんだろ?」


そこで、先頭の男はバイクにかけるように付けていたショットガンを取り出すと、その銃口をリーダーに向けた。

先頭の男が動くと集団も次々とその動きに倣うように動き、すぐに警戒組に多数の銃口が向けられ結果になる。


「仲間を引き連れて全ての物を置いて帰れ。ついでだ、持ってきた武器類も置いてってもらうかな」


「戦争でもする気か?止めろ、双方から無駄な被害でるだけだ」


「もう死ぬ覚悟で来てるんだ。

無駄な被害ごときで立ち止まると思ってるのか?

今からでも遅くない。招待してくれるって言うなら調達の作業を手伝うし、ゾンビからの退路の確保だってやる。

ダメっていうなら仕方ない。戦争だ」


「ま、待て待て。死ぬ覚悟があるのと、無謀な戦いをするのは違う。

あんたらの人数は確かに多いが、こちらの方が戦力は多い。ゾンビと戦うことを想定してここまで来てるんだ。俺らにだって覚悟はある」


「ハハハッ、ウケる。お前らを見てればわかる。

何だかんだ言って自分だけは大丈夫だ。被害は出るだろうが、自分は助かるだろう。

そんな考えが滲み出てる。


覚悟を舐めるな!お前らは平和ボケしてるんだよ!

自分が死ぬわけないとでも思ってるのか!?死ぬさ!断言する、牧場の中の連中も似たような集まりだ!

オロオロと逃げ惑い、碌に抵抗もせずに逃げ出していく!烏合の衆だ!

数日間で数えきれない程の修羅場を経験し、覚悟した俺らに勝てるなんて100万年早いんだよ!」


「そちらこそ自惚れるな!何が烏合の衆だ!返り討ちにしてくれる!」


「はっ、後ろ見てみろよ」


「………後ろ?」


リーダーが先頭の男に言われるがまま後ろをチラリと見ると、そこには怯えて一箇所に固まりガクガクと震える警戒組の姿があった。

どう見ても戦力になるとは思えない。


「あんたみたいのも中にはいるだろうが、あっちの雑魚が大半だ。

これで分かっただろ。さて、ラストチャンスだ。俺らをホームまで案内してくれよ」


先頭の男がリーダーにそう言うと、怯えてた警戒組は口々に賛成を表するが、集団は聞く耳を持たない。

リーダーの意見以外を聞く気はないのだろう。


「………ダメだ。お前らが受け入れられとは思えない。拠点にまで連れて行ったら、拠点を攻撃しかねない。

なら、ここで潰すまでだ」


「な、何言ってんだよ!?もしかしたら、スピーカーも受け入れるかもしれないだろ!」


「そ、そうだ!勝手に決めるな!」


「従おう!ここで争ったら俺らは、確実に死ぬ!」


リーダーの言葉に警戒組が怒鳴り始めるが、相変わらず先頭の男を含めて集団は聞く気はない。

リーダーは申し訳なさそうに仲間を見ることはあるが、意見を変える気はなかった。


「そうか。俺は今から牧場内を攻め入る。いいんだな?」


「あぁ。俺が決めるのも勝手な話だが、これが最善だろう」


「そうか」


先頭の男が銃口を向けていた銃を構え直すと、リーダー以外の警戒組が蜘蛛の子を散らすように逃げ始めるが、リーダーはその場を動かずに来たるべき時を待っていた。


そして、すぐに先頭の男がショットガンを撃ち、集団を構成する人々も少し遅れて撃ち始める。

襲いかかる大量の銃弾を防ぐ術がない警戒組は一斉に銃弾の餌食になる。

黙って立っていたリーダーを含めた警戒組は一瞬で全身に銃弾を浴び、悲鳴を上げる間もなく絶命した。

警戒組が誰一人として立っていないのを確認すると一拍を置いてから先頭の男が言った。


「行くぞ」


一言だけポツリと呟くように言うと、誰も返事をすることはなかったが、黙ってバイクの発進準備を始めた。

既に周囲には大量のゾンビがおり、何人かは襲い来るゾンビを撃退している。このまま突入すれば後にゾンビが続くことは明白だった。

ここを要塞化するには中にゾンビをいれることは好ましくないが、集団の誰もがゾンビを外に留めようという考えはない。


牧場内にいる作戦参加者には迷惑な話だが、彼らはここで命尽きるまで戦うことを決めていた。

生きることに疲れた彼らはこの世で最期の大一番の退路を絶ち、死ぬまで戦い抜く覚悟だ。

作戦参加者にとっての不幸は続き、この頃から警戒組がゾンビに屈し、続々と逃げ出していたのだ。

大量のゾンビの侵入を許し、牧場を脱出する際に使うことを想定していた出入口からは大量の死を恐れぬ集団の攻撃を受けることになった。

この瞬間、牧場を全方位からの同時攻撃が始まった。


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