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第14話

『さて、シャッター前のゾンビの誘導には成功した。それでは、計画通り作戦を開始する』


そのスピーカーの放送が合図となり、シャッターが開かれ次々とトラックが外に飛び出す。

念の為、シャッター付近に数名の人員を待機させ、ショッピングモール内へのゾンビの侵入を警戒していたが、ゾンビの誘導がうまくいっているのか出入口付近にゾンビの数は少ない。


トラックの数は多いが、特に大きな問題が起きることなく全トラックがショッピングモールから出発することができ、作戦参加者は胸を撫で下ろす。

幸先の良いスタートとなり、長い道中はトラックの音に釣られてきたのか後続車になればなるほどゾンビとの遭遇率は高くなっていたが、動きの遅いゾンビがトラックに追いつけるはずもなく、見かける程度に留まっていた。


そして一行は誰一人欠けるどころか、弾を一発も消費することなく牧場に到着した。

その事実は参加者を安堵させるが問題はここからだ。

牧場はショッピングモールと違い知能がないゾンビでも簡単に中に入ることができる。

どれだけのゾンビが牧場に入り込んでいるかがこの作戦の成否を決定すると言っても過言ではない。


牧場に到着した一同は先頭から続々と牧場に入り、牧場の各地に散らばっていく。

警戒組は牧場に入らず、牧場の外をぐるりと周り、牧場の中に入れそうな場所を見つけると、トラックを停めて周辺の警戒をする。


牧場に先頭として入り込んだデニス・ゴールドマンは牧場内の適当な場所にトラックを停めて周囲を見渡す。

大量のトラックが好き勝手に動き、動物達を回収したり、建物から物資を捜索している中にチラホラとゾンビは見かけるものもその数は少ない。

ゾンビの恐ろしい所はその圧倒的な数の多さだが、数の利を奪うことさえできればゾンビはさほど脅威ではない。


(杞憂だったか。今の所は想定した様々な展開の中で最も成功に近い展開だ。

だが、本番はこれからだ。動物達を回収し終えた頃にはトラックの音で引き寄せられたゾンビが牧場周辺を取り囲んでいるはずだ。

急がないと牧場はゾンビに呑まれる。いかに早く牧場を抜け出すせるかが生存の鍵だ)


デニスは牧場の隅にあるかなり大きめの建物に目を付けた。デニスの記憶が正しければあそこにあるのはただの物置だ。

めぼしいものは何も置いていないが、参加者の中でそのことがわかる人間は少ない。

デニスは自分と同じトラックに乗っていた人間と周辺にいる20名程の人々を集めた。


「あそこにでかい建物が見えるか?あそこに物資の調達に行きたいんだが、随分とでかい建物だから手伝ってほしい」


そう言うとあっさりとデニスについて皆物置に同行した。

デニスを先頭に物置に入ると続々とデニスが集めた人員が物置に入っていく。

そして、最後に入ったデニスと同じチームの者が物置の扉をしめて、わざと大きな音がなるように鍵をかける。

鍵がかかる音で足を止めるが、ここにいる者は既にデニスとその協力者に挟まれるような位置に立ってしまっていた。


「ご苦労、ヴィクター」


デニスが鍵をかけた協力者に礼を言うとようやく人々は自分たちが挟まれたことに気が付き、身構え始める。


「そう警戒しないでくれ。騙すようなことをしたが君達にとっても良い話があるんだよ」


「………良い話?」


「そう、良い話だ。とりあえず確認だが君達はどのエリアに所属してる?」


「…俺は北」


「俺は東だけど」


「………西」


「俺も西」


「南エリアだが、それがどうしたって言うんだ」


次々と自分のエリアを名乗る人々にデニスは内心でほくそ笑む。思惑通りに全エリア満遍なくいる。


「うんうん、なるほど。じゃあ、君達はこのままスピーカーの言いなりになるのはどう思う?」


「そりゃ、あんまり良い思いはしないが」


「そうだよね。じゃあ、ここで提案。俺と一緒にスピーカーに一泡吹かせてみないか?」


その言葉に明らかに人々の表情が凍り付くが、デニスはニコニコと笑顔を絶やさない。


「そ、それはスピーカーに謀反を起こすってことか?」


「もちろん」


「待て待て、何か策があってそう言ってるんだよな?」


「あぁ、この牧場もその索の一貫。

君達は自分のエリアのチーム数と今の自分のチームが担当する班を教えてくれればいい。

班は順番で回って来るからこの2つが分ればいつどの班を担当するかがわかる。

管理班の時にあらかじめ決めた位置に手紙を残すようにすれば連絡も取り合える。細かいことはその手紙に書くようにする」


「策があるのはわかったが、協力するメリットは?」


「この中にも家族と会う目的で参加した者がいるだろう。その者に聞きたいが家族と事前に面会はできたか?」


「………できてない。両方共、面会の申し出をしていたのに」


「そして、ここからショッピングモールに戻れば再び離れ離れだ。何故そうなると思う?

それはスピーカーが家族というものを人質としか思ってないのだよ。

家族がいない者も関係ないとでも思ってるかもしれないが、スピーカーはショッピングモール内の人間を奴の考えた楽園を構成する駒としか見ていない。

何かあれば見殺し、それどころか楽園を構築するために散々に利用され殺されるぞ」


「そんなのあんたの想像だろ?」


「…いや、くやしいがデニスの言う通りだ」


最後に弱々しい不安げな声で言ったのは北エリアの男だ。

周囲がどういうことだと聞くと彼は北エリアで起きた粛清騒ぎの話を始めた。


粛清の放送はショッピングモール中に流れているので、知らない者はいなかったが、他エリアの者はその細かい内訳をしらない。

だからこそ、衝撃的だった。粛清された班と粛清した班には明らかに人為的な偏りがある。

つまり、スピーカーは粛清事例を作るために1チームをわざと見殺しにしたということだ。


これも想像には過ぎないがスピーカーがショッピングモールで暮らす人間のことを駒としか思っていないという話の信憑性が高まることとなる。

デニス自身も北エリアの粛清騒ぎはスピーカーが作為的に起こしたことは想定していたが、まさかここまで分かりやすいとは思ってなかった。


そして、これは明らかにスピーカーのミスだ。デニスにとって付け入るには申し分ない材料だった。


「北エリアの件でわかる通り、スピーカーは俺らを駒としか考えていない!

もし、俺が南エリアで騒ぎを起こしてもスピーカーは南エリア全域に毒ガスを巻きかねない外道だ!鬼だ!畜生だ!

そんな奴に家族や自分の命を任せなければいけない今の状況を何とかするには誰かが立ち上がらねばならない!

誰も立ち上がらないなら俺がやる!そのために他エリアの協力は必要なんだ!あのスピーカーが支配する楽園から解放されるために協力してくれ!」


デニスが言い終えるとしばらく呆気にとられたように沈黙が続く。

その沈黙が誰かが拍手をすることにより破られ、その拍手を皮切りに歓声が湧き始めた。

次々と参加を表明するのをデニスは満足そうに眺める。


だが、協力を約束した者のほとんどがその場の空気に流されているだけだ。

ここで協力した者を縛り付ける何かが欲しい。

そして、デニスの考えではその何かは向こうから勝手にやってくるはずだ。


「バカバカしい。俺は協力しないからな」


その声をきっかけに歓声が止む。

人々が声のした方を向くと一人の男が不機嫌そうに立っている。

男の脇には二人ほど不安げな顔をした人物が立っており、この三人は次々と参加を表明してく中で沈黙し続けた三人だ。

そんな三人を見てデニスはほら来たと心中で呟いた。


「悪いが俺は戻り次第、スピーカーにあんたらのことを報告する。

キレイ事並べてるのはスピーカーもそいつも一緒なら、たった今の支配者のスピーカー側につく」


「では、君は協力しないと」


「あぁ。で、お前は俺をどうする?殺すか?散々キレイ事を言ったんだ、俺を殺したら水の泡だぞ」


「ん?いや、普通に殺すけど。ヴィクター」


「は?ちょ、ちょっと待ッ」


デニスの言葉に男は慌てるが、いつの間にか男の後ろに回り込んだヴィクターが男の言い分を聞くまでもなく、持っていたサバイバルナイフで男の首を掻き切った。

掻き切られた傷口から血が溢れ出るのを見て、横にいた二人が慌ててデニスに方を向き涙目で協力すると喚き始める。


「すまんな、今更君達を信用するのは無理。ヴィクター」


デニスがヴィクターに声をかけるとヴィクターは二人の首をナイフで抉る。

首を傷つけられ出てくる血を手で止めようとするが、誰が見ても手遅れだ。今まで歓声をあげていた人々は三人が死んでいく様を黙ってみることしかないできなかった。


「彼は勘違いをしていたようだ。俺は全員を助ける気はない。

できれば助けたいというのは本音だが邪魔する奴まで助けてる義理も余裕も暇もない。

俺の目的はスピーカーが作った楽園解放。このままスピーカーに飼い殺されるのを回避する。

多少の犠牲はやむを得ないがスピーカーと違って身内を見捨てることはない。

もちろん、協力してくれると言った君達は身内というわけだ」


デニスが言い終えると、再び沈黙が訪れるが今度は歓声をあがることはなかった。


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