第13話
「ヘッイ、ヘイヘイ、ジャック!」
ジャックがダグラスと二人で適当に目に入ったトラックに乗り込もうとしていると、そんな声が背後から聞こえてきた。
そして、ジャックが振り返る間もなくジャックの背中に手の平が叩きつけられた。
力が弱いのか、そのような叩き方をしたのか、響いた音の割には背中に痛みはない。
ジャックの背中を叩いた本人は走って駆け付けていたのか、勢いのまま前に回り込んだ。
「…あー、ケイティだっけ?数日ぶり」
「誰この娘?散々会いたがってた奥さん?」
「なわけねぇだろ。俺がこのショッピングモールに来た時に知り合っただけだ」
「そうそうそう。私がジャックの奥さんなわけないじゃん。私にはニコルっていう永遠のダーリンがいるんだもん。っと惚気話をしにきわけじゃないんだった」
「ん?違うのか?」
「違う違う。ジャック、君のことを探してたんだよ」
するとケイティは懐から便箋に入った一枚の手紙を取り出して、ジャックの前に突き付けた。
ジャックがキョトンと突き付けられた手紙を見ていると、なかなか受け取らないジャックに嫌気が差したケイティが手紙を強調するようにばたつかせた。
それでもキョトンとしたままのジャックの後ろで事の顛末を眺めていたダグラスが見かねてジャックの背中をつつくと、ジャックがハッとして手紙を受け取った。
手紙を受け取ったジャックは便箋を見回してみるが、宛名も差出人も書いていない。
「………これは?」
ジャックがケイティに尋ねる。
ジャックの肩越しに便箋を見ていたダグラスも口には出さないが同じことを思い、目でケイティに尋ねていた。
「あなたの奥さんからの手紙」
「マイアの!」
ジャックが便箋を慌てて開こうとするが、ダグラスがそれを止める。
「落ち着け。その勢いだと中身が破れるぞ。牧場までの移動は長い。トラックの中でゆっくり読もう」
「あ、あぁ。そうだな、すまん」
「うん。確かに、渡したからね」
「…ありがとう。この手紙を持ってるってことはケイティと一緒にいたってことだよな?」
「同じ東エリアだったからね。大変だったんだよ。この作戦に参加するって言い出して」
「そうか…妻が迷惑をかけた。そして、妻を引き止めてくれてありがとう」
「別にいいよ。じゃあ、私ニコルのこと捜してくる。ニコル見なかった?」
「いや、見てない。でも、ニコルのことだから参加してるんじゃないか?」
「私もそう思ってるから捜してるんだ。じゃあ、時間もないから私はもう行くから」
「お互い気をつけような」
「ふふ、ありがとう。ジャックも家族のためにも死なないでね」
ケイティは笑顔で手を振ってからその場を立ち去る。
ジャックは立ち去るケイティを見送ると、自分の手の中にある手紙をまじまじと感慨深く見ていた。
そんなジャックの様子を眺めていたダグラスがジャックに声をかける。
「良かったな、奥さんに捨てられたわけじゃないようだ」
「当たり前だろ。俺の妻だぞ」
「その中身は別れの言葉かもよ」
「それも悪くないかもな」
「………まぁ、俺がどうこう言うことじゃないか」
そう言うとダグラスはトラックの中に乗り込んだ。
ジャックはしばらくその場で手紙を開けることなく見つめいる。覚悟を決めているのか、感慨にふけっているのかはダグラスには予想もつかないが、少なくとも邪魔をすべきではないとはわかる。
その後、ダグラスはジャックの気が済み、トラックに乗り込むまで黙って見守っていた。
ケイティは再び困惑していた。目の前にいる数人の男が自分に絡んできているからだ。
ジャックと別れた後にニコルを捜すために辺りをニコルの名を大声で呼びながら歩きまわっていたが、中々ニコルは見つからない。
トラックに次々と乗り込んでいき、大勢いた群集も既にチラホラと見かける程度になっている。
焦りつつも再びニコルの名を呼ぶと背後から声をかけられ、ニコルかもという期待を胸に抱いて振り返るがそこにいたのは見覚えのない数人の男だった。
「ニック?どうした急に?この女は知り合いか?」
「おいおい、ナンパかよ。緊張感ない」
「いやでも見てみろよ。いい女だぜ。いい趣味してるな、ニック」
声をかけてきたであろうニックという男を周囲が茶化すようなことを言うが、当のニックは真剣な顔つきでケイティを見ている。
「………先にトラック乗っててくれ」
「ニック?マジでどうした?」
「少しこの女に話がある」
周囲の男は再びニックを茶化そうとしたが、あまりにも真剣な顔付きに思い留まった。
「わかった。長くなるなら別にトラック内でも良いんたぞ。
どんな話かは知らんが、盗み聞きする気はないし、聞こえても言いふらしたりしない。
じゃあ、先に行ってる」
ニックの周りにいた男達の一人がそう言ってトラックに向かって行くと、他の男達もそれにならうようにトラックに向かう。
ケイティは相変わらず困惑したまま一連の流れを見守っていたが、真剣な表情をしたニックと二人っきりになり気まずく感じたケイティが仕方なく話しかけた。
「えっと、話って?一応聞くけど人違いじゃない?」
「…ニコルのことを捜してたようだけど、ニコルとはどういう関係だ?」
「!ニコルを知ってるの!?」
「どういう関係だ?」
「………こいび…つ、妻よ」
「そうか。わかってると思うが、俺はニコルの知り合い…なのか?
まぁ、なんでもいい。ニコルのことを知ってる」
「…ニコルは?」
「結論から言うと死んだ」
「えっ?」
「俺が殺した」
「………」
「続きを聞く気があるなら、トラックに乗れ。男ばっかだけど襲ったりはしない」
ニックはそれだけ言い残すとトラックの方に歩き出した。
ケイティは遠ざかっていくニックを見て、少し戸惑いつつも折角見つかったニコルの手掛かりを逃すわけにはいかないと思いその後を追う。




