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第11話

ケイティは困惑していた。エリア分断でニコルと別れてしまい、知り合いなどほとんどいない。

同じチームの人間もまだ警戒心が抜けきっておらず、壁を感じる。


そんな中、このショッピングモール内にいる数少ない知り合いがわざわざ会いに来たと知った時は舞い上がるほど嬉しかった。

だが、そんな喜びも長くは続かなかい。

会いに来たのは数日前に知り合ったばかりのマイアとその娘のソフィだ。

満面の笑みで2人を出迎えたケイティだったが、マイアの表情は暗く、ソフィはケイティを怖がってるのかマイアの後ろに隠れている。

それでも、満面の笑みを保っていたケイティだったが、開口一番に言ったマイアの言葉に表情を曇らせた。


「えっと…ごめん。もう一回言って」


「娘を預かってもらえませんか?」


念の為、確認をとってみるがマイアの口から発せられたセリフに変わりはない。

ケイティが困ったように頬をかいてるとマイアの後ろに隠れているソフィが泣きそうな顔をしながらマイアの服を引っ張って言った。


「ねぇ、ママ…どうして?ヤダよ、ママと一緒にいたい」


「ほら、ソフィちゃんもこう言ってますし。だいたい突然どうして?」


「さっきの放送は聞いてました?」


「さっきのっていうと牧場のやつ?」


「それです。私、参加しようかと」


「はぁぁ?え?………いやいやいや、危ないというかなんというか、マイアさんじゃ死ぬだけかなーなんて」


「それでも、参加しなくちゃいけないのです」


「ママ、ダメ!死んじゃダメ!」


「大丈夫よ、ママは死なない。ちょっとパパに会ってくるから」


「………パパに?ソ、ソフィもパパに会いたい!」


「ごめんね、ソフィも会いたいと思うけど我慢してね。とっても危ないから。このお姉さんとお留守番してて」


マイアがソフィの頭を撫でようと手を伸ばすが、その手はソフィの頭に届かなかった。

届く直前の手をケイティが掴み、強引に止めたのだ。

マイアが驚いてケイティの方を見ると、ケイティもマイアの事を真剣な眼差しで見ていた。


「悪いけどその頼みは聞けない」


「………どうして?」


「私も参加するから。ニコルのことが気になる」


「…そう、なるほど。納得。他当たる」


マイアはソフィの手を引き、ケイティから離れていく。

ソフィはケイティの事が気になるのか離れながらもチラチラと振り返っているがマイアは振り返ることはない。


「子供には親が必要よ」


ケイティがどんどん離れていく二人の背中に向かって叫ぶと、マイアの足がピタリと止まった。

マイアに引かれる形で移動していたソフィも立ち止まり、ケイティの方を見ているが、マイアは立ち止まったまま振り返ることなく前を見続けている。

ケイティは立ち止まった二人にゆっくりと近づきながらその背中に声を掛ける。


「マイアさんはソフィちゃんが生きてて幸せならそれでいいとか思ってるかもしれないけど、ソフィちゃんからしたら一緒にいてくれてこその母親。

何処かで生きてくれるだけで私は満足みたいなのはただのエゴよ。


親がいない子供っていうのは、その事実が既にハンデになる。

何をしようにも、周囲が気にしてなくても、本人の心に引っかかるもののが残る。

それに、ソフィちゃんの場合だと捨てられたと思われても仕方ない。


私がソフィちゃんぐらいの子にあったら必ず言うって言った言葉を覚えてる?

私みたいな大人になっちゃダメだよ。

実はこれね、私に親がいないことの自虐的な意味合いが強いの。

親に育てられなかった私は碌な大人になれなかったよって感じ。

私は何で自分の親がいないかを知らない。事故なのか病気なのか捨てられたのかもわかんない。

ただ気づいた時には孤児院にいた。


だから断言する。子供は親無く育ってはいけない。

そんな私の前で子供を捨てるようなマネは止めて。捨てるわけじゃないって思ってるだろうけど、マイアさんがどう思うかはどうでもいい。

ソフィちゃんが捨てられたと感じた時点でアウトなの。

私じゃなくて父親を優先した。私から見てもそう感じるのだから、ソフィちゃんがそう思わないわけがない。

夫が大事なのはわかるけど、今回は娘さんを優先してあげて」


立ち止まったマイアのすぐ横にまで来たケイティはマイアの肩をポンと叩いた。マイアは顔を俯かせたまま小刻みに震えてるだけで、反応はない。

ケイティはそんなマイアの反応を待つことなく、再び歩き出し、マイアの横を通り過ぎた。


「じゃ、じゃあ!どうしろって言うの!ジャックを、ジャックを忘れろとでも!」


マイアがケイティの背中に怒声をぶつけると、ケイティはくるりと振り返り言った。


「手紙。手紙ぐらいなら私が渡しとくよ」


振り返ったケイティは儚いながらもきちんと笑っていた。その顔を見たマイアはその場に膝をつき、すぐ傍にいるソフィを強く抱き寄せた。

ソフィは抱きつくマイアの力が強く、苦しかったが文句を言うことなく抱きつかれたままでいる。


「………後で一緒にパパへのお手紙書こうね」


マイアはソフィを抱き締めたままそう言うと、ソフィも小さく頷く。

ケイティはその光景を相変わらずの儚い笑顔で見守っていた。

































































翌日


多数の賛成票により可決された牧場作戦の参加者はエリア関係なく地下駐車場に集まっていた。

人数不足の心配もあった本作戦だったが、実際に集まった人数は誰も予想してなかった程の大所帯であった。


ゾンビによる騒動は朝方から起きたこともあり地下駐車場にはショッピングモールに搬入にきていた多数の業者のトラックが残されており、作戦からあぶれるような人物はいなかったが、作戦参加者の一部の表情は暗い。


それは、家族や友人などとの再会目的で参加した人物達だ。既に目的が達せられてしまい帰りたいというのが彼らの本音だろうが、参加すると決めたのは他でもない自分達なのだ。


そして、再会以外にもここに集まった者は様々な目的を持っている。

ゾンビと戦いたい・スピーカーのため・他エリアとの接触・成り代わりなど。各々が別々の目的を持っている中でここにいる者達に共通して言える事柄がある。


それは、今回の作戦をどこか楽観視していることだ。

油断はしておらず、ゾンビが危険だということも理解はしているが、自分は助かるという甘い考えを持っている。

ゾンビ発生からショッピングモールという楽園に引きこもっていた彼らには外が地獄であるという感覚が薄かった。

彼らは今から楽園を抜け地獄に向かうのだ。この作戦が凄惨たる結果になるのは最早必然だったのかもしれない。


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