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第1話

ゾンビ

それは死んだはずの人間が動き出し生きる人々を襲い始める空想上の生き物。

一般的に弱点は頭とされ、頭以外を攻撃しても効果はない。

食欲という本能に身を任せて生きる人々に食らいつき、捕まるとゾンビに骨の髄まで食い尽くされる。

もし、その食事から逃げ出すことができても、一度噛まれてしまえばその人物はしばらくすれば死んでしまい死後ゾンビとなってしまう。

作品によって差異はあるもののゾンビという存在は世界中にそのような存在だと認知されている。

もちろん、前述通りそれは空想上の生き物で本来は存在しない。

そのはずだった…












アメリカ某所の住宅街


多数の立ち並ぶ家の1つに住むごく普通のサラリーマンであるジャック・ラインフォードは困惑していた。

いつものように朝食を食べて、いつものように妻と娘に別れを告げて家を出る。そこまではいい。


だが、ジャックの目の前に広がる光景はとてもいつものようにとは言い難い。

響き渡る悲鳴。逃げ惑う人々。それを追いかける目が虚ろで足元が覚束ない人と思わしき存在。

車は法定速度を無視した高速道路ばりのスピードで走り回ってる。事故を起してる車もあり、動かなくなった車に尋常じゃない存在が群がっている。


ふと、ジャックが横を見ると見覚えのある近所の住民が足をもつれされて転んでる姿が目に入った。

そこにぞろぞろと押し掛ける尋常ならざる存在。

近所の住民が手を振り回して抵抗しているが、哀れにもすぐに大量の尋常ならざる存在に取り押さえられて噛み付かれていく。

近所の住民の悲鳴がジャックの耳にも届くが、ジャックはどうすることもできない。

すぐに近所の住民の悲鳴は小さくなっていき、直に聞こえなくなった。


すると、尋常ならざる存在が立ち上がり陰になって見えなくなっていた近所の住民の姿が見えた。

いや、正確には思わしき姿だ。人の形を留めておらず、まるで肉食動物が草食動物を食い散らかしたあとのようになっていた。

辺りに血が飛び散り、大量の骨と肉片が血溜まりに中央に無造作に置いてある。そして、尋常ならざる存在の口周りは血でひどく汚れている。


そこで、ジャックはようやく1つの結論に至った。


「…ゾンビ?」


呆然としていたジャックだが近所の住民を食い殺したゾンビがのそのそとジャックの方に向かってくることに気付くとを慌てて家の中に駆け込んだ。

乱暴にドアを閉めると鍵とチェーンを急いでかけた。


「パパ?どうしたの?」


「あら、あなた?忘れ物?」


家に入ると妻と娘がそんな声をかけてくる。どうやら娘を小学校に行くのを見送ろうとしているところだったようだ。


「マイア、ソフィ!二人共すぐに準備しろ!逃げるぞ!」


「えっ、ちょっと、何言ってるの?」


「パパァ、学校は?せっかく宿題やったのに」


「知らん!とにかく逃げるぞ!銃を忘れるなよ!」


「は?何よ、さっきから!ちゃんと説明しなさいよ!」


ジャックは妻のマイアの金切り声を無視して自分の部屋へ向かい、護身用のショットガンを取り出した。

次に弾を探して部屋を漁っていると別の部屋からガラスが割れるような音が響いてくる。


「ママァ、パパァ!変な人が入ってきた!」


すぐに娘のソフィの声も聞こえてきた。

ジャックは舌打ちをすると、ショットガンを持ってソフィの声がした方に走って行った。部屋に着くと怯えるソフィに迫っているゾンビの姿が目に入る。

マズイ、そう思いゾンビに銃口を向けるが、このままショットガンを撃つとソフィにも当たる可能性が高い。

ジャックはそう判断するとソフィに手が届く寸前のゾンビをショットガンをバット代わりにして力一杯振り抜いた。

ゾンビは殴られて少しよろめいて後ろに僅かに下がる程度だったが、ソフィとの距離は作ることができた。


「ソフィ、下がってろ!」


父親の怒鳴り声にビクリと肩を震わせてソフィはゾンビから離れていった。

ソフィが射程から外れたことでジャックは遠慮なくゾンビに向けてショットガンを撃ち放ち、弾はゾンビの胴体に命中した。ゾンビは吹き飛びながら地面に倒れ伏した。


「ちょ、ジャック!撃つことはないでしょ!確かに、不法侵入の不審者だけど!」


マイアの叫び声が聞こえているが、ジャックはそれに対応している暇はない。

注意深く倒れたゾンビを注視しているとゾンビはゆっくりとその体を持ち上げ始めた。


「チッ、やっぱりダメか!」


「えっ、嘘!何アレ!?」


「多分、ゾンビ!」


ジャックは今度はしっかりと頭を狙い定めてショットガンを撃つ。

ゾンビはショットガンに頭をはじけ散らされ、残った胴体はパタリと倒れた。


「わかったろ、外はゾンビだらけだ!外の車まで急げ!これ、鍵だ!先に乗ってろ!」


「え、えぇ。ほら、ソフィこっち来なさい」


マイアが泣くのを必死に堪えているソフィを宥めながら抱きかかえるのを確認したジャックはショットガンを構えて周囲を警戒しながら割れた窓から外の様子をうかがった。

銃声や窓の割れる音に反応したのか既に数体のゾンビが庭に入り込んでいた。


「グズグズしてると囲まれる!急げ!」


ジャックが叫びながら外に出ると、手近にいたゾンビをショットガンで撃った。

ソフィを抱きかかえたマイアがジャックの後ろに隠れるように外に出ると急いで敷地内にある駐車場に駆け込んだ。


「車の陰とか気を付けろよ!」


「大丈夫!いないみたい!」


群がってくるゾンビをジャックはショットガンで撃つが、音につられてるのかどんどんとその数を増やしてくる。

もう無理だと判断したジャックは撃つのを止めて車に駆け寄った。すでにマイアとソフィは車に乗っており、早く早くとジャックに叫んでいた。

ジャックは車の運転席に乗り込むと急いでエンジンをかけた。


「こういう時ってエンジンかからないのがお約束………あっさりかかった」


「どうでもいいから、早く出して!」


既にすぐそこまで迫ってきてるゾンビを見てマイアが叫ぶと、ジャックはわかってると呟いて車を発進させた。

すぐ目の前にはゾンビが歩いているが、さも当然のように轢き飛ばし、そのまま車道に出る。

いつもは広い道路も今日は事故車や死体、ゾンビが多くおり、運転するジャックは気が気でない。


「で、どうするのよ、これから?」


後部座席のマイアが緊張の糸が切れたのか大泣きし始めたソフィを宥めながらジャックに声をかけた。


「俺が聞きたいよ。携帯で誰かに連絡取れないか?」


「試してみるけど、ダメだと思うよ」


マイアが携帯を操作し始めると、宥められていたソフィが泣きながら口を開いた。


「ヒック、エッ、グスッ、こういう時は、ヒクッ、ショッピングモールに立て籠もるのが、グスッ、いいってケイトが言ってた」


「ケイトってクラスメイトのか?」


「うん、そのケイト、グスッ。なんか映画で見たって」


「………確かにショッピングモールは定石だし、丁度いいことにデカイのが車で少し行ったところにあるな」


「ダメ、やっぱり電話繋がらない。とりあえず行くあてもないし、ショッピングモール向かわない?」


「…そうだな」


こうしてラインフォード家はショッピングモールに向けて車を走らせる。


だが、この時ラインフォード家の誰もが気づいていなかった。

ゾンビが出たらショッピングモールに立て籠もるという一種の常識ともなりつつある行動をとるのは一人や二人ではすまないということに。


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