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山茶花の春  作者: 木村
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「これより国、ひいては国王陛下に忠誠を近い、我が蒼国の発展のため諸君の若い力を遺憾なく発揮していただきたい」


賢王に名宰相あり、といわれる湖宰相の言葉が宮中の広間に響き渡る。老成し、慈愛と威厳に満ちたその声は、緊張感と共に新官吏達の心の臓に届いた。整列する誰もが使命感と不安の両方を抱えた顔をしている。

明燕はその中で一人そわそわと落ち着かなかった。昨日のうちに入寮を済ませたが、同期と顔を合わせるのも、宮中に入るのも今日が始めてである。ちなみに、蒼国の役人は任官されてから三年目まで必ず寮に入らなければいけないという決まりがあった。



(あの人もここにいるのかな…)


目立たない程度に周りを見回すが、期待した顔は見つからなかった。前に彼と会ったのが十年も前だ。その時に教えてもらった年齢が正しかったとしたら、彼は帝と同じ二十六歳になっているだろう。顔だって当時とは変わっているに違いない。そして何よりも、まだ宮中で働いているとは限らないではないか.

明燕は自分の虚しい期待に苦笑した。

すると、自分の袖を誰かに引っ張られていることに気が付く。


「貴女、次席合格の方でしょ。次は貴女の名前が呼ばれるわ。ぼうっとしてないでちゃんと聞いてなさいよ」


そう明燕に小声で忠告してくれたのは隣に立っている女の子だ。艶やかな黒髪を官吏らしく質素にまとめ、化粧気のない顔ではあったが、気の強そうな大きな双眸を長い睫毛が縁取っている。美人、その表現がまさにぴったりである。


「わ、ありがとう!」


明燕も小声で返す。国試の結果順に名前と任官部署が呼ばれることをすっかり失念していた。隣の女の子が声をかけてくれなかったなら、明燕は初日から手痛い失敗を挙げていただろう。


彼女のおかげで、失態をさらすことなく無事に任官式を終えることができた。



---------------------




「貴女、名前は何と言うの?」


丁明燕ていめいえんだよ。あなたは?」


わたくしは、湖麗千これいせんよ。」


「麗千ちゃん、さっきは本当に助かったよ。ありがとう!」


「ふん、次席の貴女で止まったりしたら、問題なのよ。次に呼ばれる私が霞んでしまうもの。別に助けようと思って言ったわけじゃないわ」


「うんうん、本当にありがとう!そしてこれからよろしくね~」


二人は女子寮の共有室にいた。今日は任官式だけであり、後は各自解散となる。今年の女性官吏合格者は去年より一名増えた八名だった。その全員がいったん寮に戻り、先輩女性官吏から細々とした説明と注意を受けたばかりだ。宮中には多くの決まり事や、やっかいな不文律があり、国試という過酷な試験を乗り切った彼女達の頭でさえパンク寸前である。今日全部覚えろとは言わないわ、少しずつ覚えていけばいいからね、と最後に笑った先輩の目が笑っていなかったことは、しばらく同期皆の話題になるだろう。


さて、そんな先輩の圧力から逃れた二人はやっと落ち着いて茶を飲むにいたっていた。


「あなたみたいにぼうっとした子に負けたなんて、信じられないわ」


「私も自分がまさか次席になるなんて思ってもみなかったよ」


麗千がさらっと放った嫌味に気づかず、明燕は淹れたてのお茶をすする。


「それにどうして礼部蔵書官なのよ!」


「えっ!?もしかして麗千ちゃんも蔵書官がよかったの!?でも枠一つだけだったし…いやあ次席でよかったよ…」


「違うわよ!誰があんな地味な部署に行こうと思うのよ。私はちゃんと希望通り吏部郎中補佐に任官されたわ!」


「へぇ、吏部だなんて、麗千ちゃんすごいんだねぇ」


自分より成績のよかった明燕に嫌味を返されたかと思い少し腹が立ったが、どうやら明燕は本当に心からそう思っているらしい。自分を尊敬の眼差しで見ている。元々、こういう性格なのかもしれない。


(天然…というかこれは阿呆ね。ただの阿呆だわ)


きらきらと純粋な眼差しを向けてくる明燕に、麗千は毒気を抜かれてため息を着く。何を隠そう、麗千は大の犬好きなのだ。つまり、どこか純粋で抜けている明燕が、」大好きな犬とかぶってしまったらしい。緩みそうな顔をキッと引き締める。


「ま、貴女とならいい友人になれそうだわ」


「そうだね!」


麗千が差し出した白くたおやかな手を明燕がとる。


二人は固く握手を交わした。







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