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山茶花の春  作者: 木村
18/18

十八

明燕は目を瞬かせて、麗千と先程麗千から受け取った文を交互に見ていた。

その動揺が手にとるように分かり、麗千は苦笑する。


「あ、あの麗千……これは違うの。仕事上の文っていうか……」


そしてはっと気付いたように弁解する。その様子がなんだかかわいらしくて、麗千はくすくすと笑った。


「隠さなくても大丈夫よ、明燕。知っているわ。」


「えっ!?」


明燕は今まで以上に驚愕の表情を浮かべた。


「でも、さすがに驚いたわね。止水陛下と一体どこで出会っていうたのかしら?」


「えっええ!?本当に知ってるの……?」


「ふふ。さっき千樹と会ったの。明燕の部屋に妙なものを投げ入れようとしていたから、問い詰めたのよ」


「と、問い詰めた……」


形のいい唇が美しい弧を描いた。しかし明燕はその笑顔にぶるりと寒気が走った。きっと問い詰められた千樹さんという人は、自分以上の震えを体に走らせたことだろう。


「これからは私が陛下からの文を明燕に渡しますわ。」


「麗千が……」


麗千が自分に文を持ってくるということは、近々陛下と会います!ということを、ほぼ伝えているようなものだ。逢瀬を知られるというのは、とてつもなく恥ずかしい。赤くなっていく頬のままに、分かった、と頷けば麗千は片眉を器用にあげた。


「何ですの、そのように赤くなって……もしや、止水陛下……早くも明燕に手を出して……っ」


「れ、麗千!!手を出すってそんな……陛下は約束してくれたの。仕事に慣れる半年は何もしないって!」


「あら、そうなの……。つまり、半年後に手をだして何かをするということですわね?」


「あっ……」


フフフと麗千が笑みを深めた。麗千の言葉に明燕は、自分で墓穴を掘ってしまったことに気が付く。顔が熱いのは側にある行灯のせいだと言い聞かせて、なんとか落ち着かせる。


「まあ、このような野暮なことは置いておきましょう」


「そうだね……」


麗千が真っ直ぐな目で明燕を見つめた。その真摯で真剣な視線に、明燕の背もピンと伸びる。二人の背後に揺れる明かりが小さく揺らめいた。


「私は明燕、貴女の味方ですわ。きっと、何があっても」


「麗千……」


真っ直ぐな目が和らいで、今度はとても優しく明燕を捉える。


「私、ずっと友達が欲しかったのですわ。でも、貴族のしがらみって中々にやっかいなもので、全てを信頼できる人は居なかったわ。」


裏切り、裏切られ、絶望し、嘲笑し、のし上がっていく。そんな世界。本音を打ち明ければ、いつそこに付け込まれるか分からない。上辺だけで笑って、私たちは友達だと言い合う。その下にいつ蹴落としてやろうかという野望を隠しながら。


「初めてですの、本当の友達だと思えたのは。」


麗千はそこで一回言葉を区切った。そして深く息を吐く。明燕は何も言わずに続きを待った。


「……ねぇ明燕。一国の帝と恋仲になるのはとても危険なことだわ。」


麗千はそう言いながら、つい先刻のいとことの会話を思い出していた。帝としがない一官吏との恋愛は、決して簡単なことではない。明燕もそれは分かっているようで、厳しい顔をして頷いた。


「私は、友達が危ない目に合うのは嫌だわ。でも、明燕はその人が好きなのですわね。」


「うん……」


「それなら、何かあったらすぐに言ってちょうだい。その時は、権力も身分もお金も、全て使って貴女を助けるわ」


麗千の目は、その言葉が決して虚構などではないことを語っていた。


「麗千、ありがとう。」


明燕も、真剣な目でその覚悟と愛情を受け取る。


「私も、麗千に何かあったらすぐに駆けつけるよ。私は何も持たないけど、体一つで、すぐ麗千のそばに行くよ。」


「明燕……貴女って……」


麗千はじわりと浮かんだ涙を隠すように目の前の少女を抱きしめる。幸せすぎて涙が出るなんてことは生まれて初めてだった。明燕はゆっくりと、自分より華奢な麗千の背中を撫でる。

異性とも家族とも違う、このほのかな温かさを失くないと、麗千は心から思った。







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