アンケートにご協力ください
久々に短編を書きました。
思いつきで書き、更にありがちな設定のお話ですが読んでくださるとありがたいです。
「アンケートにご協力ください」
ある日、俺が街を歩いていると、タキシードを着込みシルクハットを被った奇妙な男からそう声を掛けられた。彼から提示された紙にはいくつかの質問が書かれていた。
ちょうど退屈をしていた俺はそのアンケートに答える事にした。
『アンケートにご協力いただきありがとうございます。アンケートは全五問。YES/NO方式で進んでいきます』
五問くらいなら、さほど時間は取られる事はないだろう。とは言っても、何か予定がある訳ではないからこうしてアンケートに答えているのだが。
『アンケート1 あなたには夢があり、その夢は叶うと思っている YES/NO』
いかにもアンケートらしい質問だった。実は俺は声優になりたいのだ。だが、明後日の結果次第では、暫くはその事を忘れて学業に専念をしようと思っている。だが弱気でいても仕方がない。
「YESっと……」
『アンケート2 あなたには叶えたい小さな願いがある YES/NO』
小さな願い……。ちょうど新しいパソコンが欲しいと思っていたところだ。
「YESだな」
『アンケート3 あなたは今後、人間関係に不安が生じる事があると思っている YES/NO』
人間関係……。今後となると、ありそうだな。
「YES、かな」
『アンケート4 あなたは、自分が数日中に事故に遭う事はないと思っている YES/NO』
何だ、この質問は? 一体何の意味があるのだろうか……。
事故、か……。普段からそういう事には気をつけてはいるが、事故なんていつ起こるか分からない。
「NOだ」
『アンケート5 あなたは、自分が数日中に死ぬ事はないと思っている YES/NO』
…………さっきのものといい、今の質問といい、何がしたいんだ。正直、あまり良い気はしない質問だが。
まぁ、所詮はアンケートだ。気にする事はない。
「……NO」
書き終えたところで、アンケート用紙が引き取られた。タキシード男は用紙に一度目を通すと、こちらに向けてにやりと笑みを浮かべた。何を考えているのか分からない、不気味な笑みだった。
「ご協力、ありがとうございます」
男はそういうと、俺の前から立ち去った。
二日後、遂に俺は無事養成所を卒業する事が出来た。更に、声優事務所への入所も決まったのだ。遂に夢が叶った……! ここまでの幸福を感じた事は、今までの人生で初めてかもしれない。
俺はその入所が決まったその足で、街へと繰り出した。今日ぐらいは少し派手に金を使っても良いだろうと思ったのだ。
そうして家電屋までやってくると、そこでは福引を行っていた。しかも偶然、一度だけ挑戦する権利を俺は持っていた。夢が叶ったばかりの俺には、何故だか当たるような気がしてならない。そうして意気揚々と回してみたところ、出て来たのは銀色の玉だった。
つまり二等賞を当てたらしい。
やはり今日の俺は運が良い。おまけに貰えたのはちょうど欲しかった新しいパソコンだ。俺の幸せ度数も更に上昇する。
夜、その日を振り返った俺はついついにやけてしまうのだった。
翌日、大学の友人と喧嘩をした。今思えば些細な事だったが、その時の俺はどうにも熱くなってしまっていたらしい。友人は頑固な性格だ。もしかしたらこのまま仲違いをしたままになってしまうかもしれない。
更に、俺の不注意から先輩も怒らせてしまった。友人との喧嘩のせいで苛立っていた事が、この事を招いた一番の原因だろう。
俺は思わずため息をついていた。昨日の幸運から一変、今日はあまりついていないようだった。
俺は自宅への帰り道である事を思い出した。数日前に書いたアンケートの事だ。今思うと、この二日間に起きた事の全てがアンケートの通りに進んでいるような気がする。
初めの質問は、夢が叶うと思っているといった内容だったと思う。そこで俺はYESに丸をした。結果として、俺の夢は本当に叶っている。
二つ目は叶えたい小さな願いがあるという内容。俺はYESに丸をして、叶えたい小さな願いであった新しいパソコンが欲しいというものは実現した。
三つ目の質問は、人間関係に不安が生じる事があると思うかという内容だった筈。そして今日、本当に人間関係が不安になる出来事が起きた。
偶然と呼ぶには、あまりにも出来過ぎている。……思わず肌が泡立った。
確か四つ目は数日中に事故に遭う事はないと思っているというもの。俺はそこにNOと書いた。…………推測通りなら俺は数日中に事故に遭う。
「ま、まさかな……。ただの偶然だよきっと」
そう言って早歩き気味に家へ向かって歩き出した俺に、車が突っ込んできた。幸いな事に、運転手が急ブレーキを掛けてくれたおかげで轢かれる事は免れたものの、俺は尻もちを付いてしまった。
そして俺の脳裏にはあのアンケートに書かれた文字が浮かび上がる。数日中に事故に遭う事はないと思っているという質問に、俺はNOと書いてしまった。その結果、俺は事故に遭った。俺の頭はもうそうとしか考えられなくなっていた。
残す所質問された内容は一つ。数日中に死ぬ事がないと思っている、という内容。俺は…………そこにNOと書いてしまった。
「う、うわああああああああっ!!」
俺は恐怖のあまり、そこから逃げた。後ろで聞こえる、運転手の制止する声を無視して走り続けた。
俺は、死ぬ。これはもう偶然なんかじゃない。あのアンケート用紙に俺が書いた内容通りの事が起きているのだ。俺は必死で逃げた。何処まで逃げれば安全なのかなんて事は全く分からないのに、ひたすら逃げた。
「こんな……! こんな事あってたまるかよ!? 折角夢が叶ったのに……!」
何処まで走っただろうか。見覚えのない光景が広がる道へ出てきてしまった。辺りは人通りが多く、周りも背の高い建物が多い。
足を止めて、俺は荒れる息を整えながら、俺はこれが全て夢なのだと思った。こんな事、現実で起こる訳がないのだから。
「ははっ……。そうだよ夢に決まってるじゃないか。バカみたいだなぁ俺」
安心したように笑う俺の頭上に、いくつもの鉄材が降り注いできた事に俺は最後まで気付く事はなかった。
ある日街を歩いていた僕の前に、タキシードを着てシルクハットを被った奇妙な男が現れた。男は僕に一枚の紙を差し出しにやりと笑うと、こう言った。
「アンケートにご協力ください」
アンケートに答えた事がない人は居ないと思います。
そんな身近な存在であるアンケートに書いた内容が、そのまま自分の身に降りかかってくる。
もし、そんな事があったら気軽に受け答えなんて出来なくなってしまいますね。
すでに使い古された感のある内容でしたが、蒼峰峻哉風に書くとこのような雰囲気になります。
皆さんの読んだことのある、同じような内容のお話と比較してみるのも面白いのかもしれませんね。