魔王の秘密と勇者の謎 その3
次の日。
ここはグラン城の城下町。
「へへへ…待ちきれずに来ちまったぜ」
早朝、なんとガットンが馬車で来ていた。自身の傑作の盾を早く見てもらいたかったのだ。
「とはいえ腹減ったな。とりあえずなんか食うか」
ガットンは馬車を置き、軽食屋に入った。
「いらっしゃいませ」
「おう。コーヒーとサンドイッチ頼むわ」
「かしこまりました」
ガットンは機嫌が良かった。職人としてやりがいのある仕事をこなす事ほど楽しい事はない。しかも大金も手に入るのである。
ガットンは朝食を美味しくいただき、ゆっくりしていた。そこへ
「いらっしゃいませ」
木こりのノルッドが現れた。ガットンとノルッドは一瞬目が合ったが、特に気にはかけなかった。が、数秒後、
「あれ?」
ノルッドがガットンに話しかけた。
「お前は…サスケか!?サスケだろ!?」
「!…あ、お前は…ノルッド?」
サスケとは何者なのか?人違いだろうか?しかしガットンもノルッドを知っているようだった。
「サスケー!久しぶりだなあ!」
「そ、そうだな…」
ノルッドはガットンのテーブルに来た。
「この町に引っ越してきたのか?サスケ」
「ノルッド、サスケっていうのやめてくれ。それは本名じゃねえんだよ」
「え?そうなのか?」
実はガットンとノルッドは20年以上昔、盗賊として組んでいたことがあったのだ。ガットンはその時、自分の事をサスケと名乗っていた。正体を隠すためだ。
「しかしまあお前がまだ生きているとはな、ノルッド」
「当たり前よ!この俺様がそう簡単に死ぬかよ」
「よく言うぜ。お前の事は、この俺が何度も助けてやっただろ」
「何言ってやがる。それはお互い様だろ」
「まあ、そういうことにしといてやるよ」
「ははは、相変わらず口だけは達者だな」
そして二人はお互いの近況を話し合った。
「へえ、お前が盾職人ね」
「まあな。才能ってやつだよ」
「変なもんばっかり売りつけてるんじゃねえだろうな?サスケ」
「だからサスケじゃねえって言ってんだろ!」
「いいじゃねえか。俺にとっちゃお前はサスケだよ」
「ふん!」
仲がいいのか悪いのか、二人は言い合いしながらも楽しそうだった。
その頃。ここはグラン城の兵士たちの訓練場。
ベイウッドとサーラが訓練用の木剣(訓練用の剣)と木製の盾を持ち、対峙していた。兵士団・副団長のガランもいた。
「…」
ふたりは真剣な表情だった。
「では始めい!」
ガランの掛け声で剣の組み手が始まった。
ベイウッド、サーラ、双方それぞれの構えでお互いの隙をうかがう。
「…」
ガランも息をのんでいる。そして…サーラが仕掛けた。
「!」
攻撃をよけるベイウッド。なおも攻めてくるサーラ。動きに無駄がなく速い。しかしベイウッドもうまくかわしている。あるいは避けたり、あるいは盾で防いだりだ。
一見、防戦一方に見えるベイウッドだが、ベイウッドは隙をうかがっていたのだ。そして、一瞬の隙をついてベイウッドが剣を振るった。
「くっ!」
しかし剣はサーラの腰のあたりをかすっただけだった。
「…」
ガランは驚いていた。二人は剣士としての腕前はまさに超一流だった。
その後、30分ほど勝負は続いたが、お互いの剣が決定的な打撃を与えることはなかった。
「よし!それまで!」
ガランが言った。
「はあはあ…」
ベイウッドとサーラは立ち止まり、剣を下ろした。
「すごいな二人とも…さすがだ…。正直ここまですごいとは思わなかった」
「はあはあ…いえ、ベイウッドはまだ本気じゃないって感じだったわ」
「はあはあ…いや、そんなことはないさ。正直、負けると思ったよ」
しかしベイウッドは無意識のレベルで手を抜いていた。やはり相手が女性だとそうなってしまうのか。それともサーラだからそうなったのか…。
「まあとにかく二人を見て私は身震いしたぞ。これなら魔王を倒せるかもしれない。いや、きっと倒せる。私はそう信じているよ」
ガランは嬉しそうだった。少しだけ悔しい気持ちもあったが。
「…」
ベイウッドとサーラは笑顔だった。
それから約一時間後。
「だからさあ、俺はファラオの旦那と勇者様に用があって来たんだよ!」
「うるさい。お前のようなやつがファラオ殿の知り合いなわけがあるか!」
ガットンはグラン城の門の前で衛兵ともめていた。
「だったらファラオの旦那呼んでこいよ。証明してやるから」
「うるさい!いい加減にしないと、力技で叩き出すぞ!」
どうやら衛兵はガットンの派手な格好から、ただのチンピラだと思ったようだ。口も悪いし。
「とにかく中に入れてくれよ。いるんだろ?ファラオの旦那」
「ファラオ殿がいようがいまいがお前には関係ない!いいから去れ」
「てめえら…人を見かけで判断しやがって」
「とにかく…」
そこへ、ファラオがガットンの後ろから現れた。
「む?お前は…ガットンか?」
「!?、おお!ファラオの旦那!久しぶりだな!」
「…」
衛兵たちは驚いていた。
「聞いてくれよ、ファラオの旦那。こいつら人を見かけで判断してるんだぜ」
「ふふふ…まあそんな格好なら仕方ないだろ、ガットン」
「なんだよー!?ファラオの旦那までそんなこと言ってさ」
「ファ、ファラオ殿…この口の悪い男とお知り合いなのですか?」
「ああ、この男は盾職人のガットンという者だ」
「…」
衛兵二人は顔を合わせた。
「そ、それは失礼しました」
「けっ!やっと分かったかこのやろう。まったく…」
「ははは、まあいいではないか。それにしてもなぜお前がここに?」
「へへへ…いやあ、盾の出来栄えがあまりにいいもんでな。一刻も早く見てもらいたくって、待ちきれなくて来ちまったよ」
「おお!そうか!よし、入るがいい。衛兵の方々、よろしいかな?」
「え、ええ、もちろんです。どうぞ…」
衛兵二人は、そそくさと道をゆずった。
「ふん!次からは俺の顔をよく覚えときやがれよ」
「く…」
衛兵二人は苛立ちながらも、我慢した。
王の間。
「よく来たガットンよ。わざわざご苦労だったな」
「へへへ…なあに、お安い御用ですよ、王様」
「口をつつしめよ、ガットン」
「はっはっは、まあよい。そなたのような人柄、わしは嫌いではないぞ」
「さすが王様。懐が深い」
「ふふっ。それで…その風呂敷でくるんでるのが例の魔法の盾か?」
「はい。さようでございます」
「よし。ガランよ、ベイウッドとサーラ殿を呼んでまいれ」
「はっ」
間もなくしてベイウッドとサーラが現れた。ガランは用事があるらしく、外へ出て行った。
「あれ?ガットンさん?なぜここに?」
「おお!ベイウッド、それに美しきサーラ嬢、久しぶり。盾、持ってきたぜ」
「え?持ってきてくれたんですか?」
「おうよ」
「それはありがたいわ、ガットンさん」
「へへへ…お礼にチュウでもしてくれるかい?」
「ふふふ、それならベイウッドがしてくれるって」
「え…?」
ベイウッドは困った。
「冗談だよ。あんたにはかなわねえ。俺はもうタジタジだぜ、へへへ」
「ふふふ」
サーラはさらりとかわした。なかなかあなどれない女性である。
「ガットンよ、馴れ合いはそこまでだ。お前が作った盾を早く見せてくれ」
ファラオが言った。
「へへへ…分かってるって、そう焦りなさんな」
ガットンは風呂敷を取り、盾を高くかかげた。
「おお!」
そこには銀色に光り輝く盾があった。正直、ファラオは少し不安だったが、そんな不安はふきとんだ。グラナディ王も、そしてベイウッドとサーラも目を見開いていた。
「どうだい?ガットン様の作った魔法の盾は」
「これは…すばらしい…」
「だろ?ミスリル銀と、チタン合金の二重構造、そして魔法の水による魔力が練りこんでいある」
「魔法の水?」
「あ、しまった」
ガットンは思わず言ってしまった。
「ガットン、やはりそうか。お前が魔法を使えるなど、前々からおかしいとは思っていたのだがな」
「へへへ…まあいいじゃないの。とにかく世界に二つとない魔法の盾が、これってわけさ」
「すごい…」
ベイウッドは見入っていた。
「ベイウッド、持ってみな」
「え…は、はい…」
ベイウッドは盾を持ってみた。
「これは…」
しっかりとした強度は感じるのに、かなり軽い。ベイウッドは驚いた。
「すごいだろ?まあ軽いのは魔法の水のおかげだけどな」
「すばらしいぞガットン。でかした」
グラナディ王が言った。
「ありがとうございます。グラナディ王」
ガットンは鼻高々に言った。
「よし。さっそく褒美を取らせよう。しばし待たれよ」
「ありがとうございます」
その後、ファラオやサーラも盾を持ってみた。そして二人もその軽さに驚いた。しばらくして城の金庫番の者がお金を持ってきてガットンに渡した。ガットンは嬉しそうだった。
「よし、では少し早いが昼食にしよう。ガットンよ、そなたも来るがいい」
「いいんですかい?へへへ、では喜んで」
その後、グラナディ王、ファラオ、ベイウッド、サーラ、ガットンは食事の間に通され、大きなテーブルを囲み、高そうな椅子に座った。
「そうだ、ベイウッド。ついでに馬車もお前にやるよ」
「え?ほんとですか?いいんですか?」
「ああ。お金も手に入ったし、新しいの買うよ。ただし、馬はやらないぜ」
「ええ。それは大丈夫です」
「だよな。飛脚馬あるもんな。いいよなー、今はもうほとんど手に入らないもんな」
間もなくして食事が運ばれ、そして五人は美味しく食事をいただいた。
「いやあ、やっぱ美味しかったなあ。俺がいつも食べてるものとは格が違うぜ」
「今日はいつもよりいい食材を使わせたのでな」
「頑張って盾を作った甲斐があったってもんっすね」
「ふっ」
ファラオはガットンの粗暴な振る舞いを少し気にしていたが、グラナディ王は上機嫌だったので、ここは目をつぶった。
しかしそんな中、魔王の右腕グリーズ率いる魔物の軍団が間もなくグラン城に攻め込もうとしているなど、誰もが知る由もなかった。
そして時は過ぎ、太陽がはるか大空から地上を照らし出すはずの時間に、無数の黒い影たちがグラン城とその城下町に降り立った。
「な、なんだ!?」
人々は恐怖に震えた。
「魔王様…間もなくです…。あなたの人間に対する恨みもこれで晴れるでしょう。さあ魔物たちよ!最後の侵攻だ!おおいに暴れるがいい!」
グリーズ率いる千の魔物軍団が、ついにグラン城に攻めてきたのだ。
「グラナディ王ー!」
ガランが王の間に、突然入ってきた。
「ガラン!?」
「大変であります!グラナディ王!魔物が…!魔物の軍団がついに攻めてまいりました!」
「な、なんだと!?」
ファラオたちもそこにいた。
「町はパニックになっております」
「くそ!ついに来おったか!ガランよ、全兵士を今すぐ出撃させるのだ!」
「はは!」
ガランは急いで兵士たちを召集しにいった。
「グラナディ王、私も行きます!」
ベイウッドが言った。
「私も!」
サーラが言った。
「う、うむ。すまないな。頼む」
ベイウッドとサーラは戦いにおもむいた。
「グラナディ王、私も行きます」
なんとファラオも戦いにおもむくと言った。
「ファラオ殿!?」
「これでも私はリガイアの弟です。剣術も少しは心得ております」
「し、しかし…」
「ご心配には及びません。では」
ファラオも王の間から出て行った。
「…」
ガットンはじっとしていた。
「グ、グラナディ王…俺は戦いは苦手なんだ…だから…」
「分かっておる。ここにいるがよいぞ、ガットン」
「す、すまねえな…」
しばらくしてガランが数人の兵を連れてやってきた。
「グラナディ王、私とサイラス、そしてこの双子のチェイサーとチェスターは、ここで王をお守りします。どうかご安心を」
「うむ。任せたぞ、ガラン」
グラン城の兵の数は約500。今の所、魔物はそのほとんどが町にいた。しかし時間が経つにつれ、城の中にも次々と魔物が入ってきた。
ベイウッドとサーラは町で戦っていた。ノルッドも大きな斧を持ち戦っていた。その他の町人も、腕に自信のある者は何か武器になるようなものを持ち戦った。
ファラオは城内で戦っていた。リガイアに剣術を教わったことあり、なかなかの腕前だった。
戦いは続いた。人間と魔物、双方、犠牲者を出しながらも戦いは延々と続く。血しぶきが舞い、断末魔がこだまする中、戦いは続く。
そんな中、グリーズは鳥のような魔物の背に乗り、空から傍観していた。
ベイウッドとサーラは、さすがに圧倒的な強さだった。この二人がいなかったら状況はかなり不利だったに違いない。とはいえ魔物の数は、兵士の数の約2倍。苦戦はやむを得ない。
そして数時間が過ぎ、魔物の数も、人間の数もかなり減ってきた。そんな中、グリーズはすかさず城内へと入っていった。ベイウッドとサーラは気づかなかった。
グリーズはその驚異的な強さで兵たちをなぎ倒していった。
「く…あれは?」
ファラオはグリーズに気づいたが、足をやられていたため、走ることが出来なかった。
”バーン!”
王の間の扉が破られた。
「!!」
ガラン、サイラス、チェイサー、チェスターが王を取り囲む。
「ぐふふふ…グラナディ王、その首いただくぞ…」
不敵な笑みのグリーズ。威圧感は充分だ。
「おのれ…」
ガランたちは構えた。王は立ち上がり、グリーズを睨んでいた。ガットンは隅っこで震えていた。
グリーズは鳥の魔物から降りた。そしてニヤリと笑った後、魔物に合図をした。
「キキー!」
鳥の魔物はガランたちに襲いかかった。
「くっ!」
チェイサーとチェスターは持っていた槍で応戦した。二人は槍の使い手だった。
「キキキー!」
魔物は旋回し、再び襲い掛かってきた。
「むん!」
チェイサーは槍を縦に構えた。そして魔物の攻撃を防いだ。
「ハァ!」
すかさずチェスターが魔物の腹を突き刺した。
「グエエエ!」
魔物はもだえた。そして
”ドサッ”
魔物はその場に落ち、数秒後に息絶えた。
「見事だ!チェイサーにチェスターよ!」
「はは!」
ガランは二人をほめた。実はこの二人は孤児で、ガランが親代わりになって育てたのだ。ガランは独身で子供もいなかったため、二人をわが子のように育てた。兵としても一人前に育てた。
「ぐふふ…やるな。まあしかしそんな雑魚を倒した所で、俺には敵うまいがな…」
グリーズは両手から鋭い爪を伸ばした。
「…」
ガランたちは、構えた。他の魔物たちとは桁違いの威圧感。ガランたちは気を集中した。
「いくぞ!」
グリーズが襲い掛かってきた。四方に散る四人。すかさずグリーズはサイラスに襲い掛かった。
「ぐっ!」
応戦しようとしたサイラスだが、間一髪、間に合わなかった。
”ズバア!”
「ぐわあああ!」
サイラスは右肩のあたりに深手を負った。
「サイラス!」
ガランが叫ぶ。
「ぐおおお!」
片膝をつき、苦しむサイラス。持っている武器を今にも落としそうだった。
「ふん!たわいもない」
爪についた血をなめるグリーズ。
「お、おのれ…!」
ガランがグリーズに攻撃を仕掛けた。
「ふん!」
しかしグリーズは軽々とよけた。そして、
”ズバア!”
「ぐわあ!」
ガランも攻撃を受けた。ガランは左腕を負傷した。
「ガラン副団長!」
チェイサーとチェスターが叫ぶ。
「もろいな、人間というのは」
グリーズは大きな体には似つかない俊敏さだった。爪は真っ赤に染まり、その破壊力を見せつけていた。
「お、おのれ…」
ガランは痛みを我慢し、グリーズを睨んだ。しかし嫌な汗が止まらなかった。王もまた、グリーズの強さに冷や汗が止まらなかった。
「何なんだ…あのバケモノ…」
ガットンは、悪い夢でも見ているかのようだった。
その頃。
ファラオは負傷した足をかばいながら城下町へと出てきていた。あらかたの魔物は兵や人々の活躍で倒していたが、当然、人間たちも多大なる犠牲者を出していた。
「なんということだ…」
無残な光景に気落ちするファラオだったが、そんなことより王が危ない。ファラオはベイウッドを探した。
「ベイウッド…む、いた。ベイウッド!」
ファラオはベイウッドに声をかけた。
「ファラオさん。大変だ、怪我をしている!」
ベイウッドとサーラは、ある程度は怪我を負っていたが大したことはなかった。さすがである。
「ベイウッド、私のことはいい。それよりも王が…王が巨大な魔物に狙われている。今すぐ行くのだ」
「で、でも…」
「ベイウッド、行って。ここはもう大丈夫」
サーラが言った。
「私は大した傷ではない。さあ、早く!」
「わ、分かりました」
「頼むぞ」
ベイウッドは走って城内へと入っていった。
「ファラオさん、大丈夫?」
「ああ…すまない」
サーラは持っていた包帯をファラオの足に巻いてあげた。
「ベイウッドなら…きっと大丈夫よ」
「ああ…そうだな…」
その時、ある倒れている魔物が近くにあったボーガンに目をつけた。
「ぐぐぐ…」
魔物は最後の力を振り絞ってボーガンを拾い上げ、ファラオに向かって放った。
「し…死ね…!」
その時、
「危ねえ!」
ボーガンの矢がファラオに突き刺さる瞬間、近くにいたノルッドが身を挺してファラオをかばった。
「!!」
矢はノルッドの腹のあたりに突き刺さった。
「ノルッド!」
魔物は息絶えた。ノルッドはその場に倒れこんだ。
「ノルッド!ノルッド!」
「…」
サーラは油断していた。その後、あたりを警戒したが、もう大丈夫だった。しかし…一歩遅かった。サーラは悔しそうだった。
「ノルッドー!」
そして城内。ベイウッドは急いで王の間に向かった。多くの兵が倒れたり、壁にもたれかかったりしていた。魔物の死体も数多くあった。
「グラナディ王…」
ベイウッドは急いだ。そして王の間に入ったベイウッドは無残な光景を目の当たりにする。
「うっ!」
そこにはグリーズに胸を貫かれているガランがいた。
「ガラン副団長ー!」
チェイサーとチェスターが叫んだ。サイラスは気絶していた。
「ガラン…副団長…」
思わず目を覆いたくなるような光景だった。ガランはうなり声をあげることすらなく、口から血を流していた。おそらくもう死んでいるのだろう。
「ん?」
グリーズがベイウッドに気づいた。
「ほほう。誰だか知らんが強い力を感じる。面白い。少しは骨のある戦いが出来そうだ」
「ガラン副団長…」
ベイウッドは怒りがこみ上げた。グリーズはガランの死体を無造作に放り投げた。
「こい」
「貴様…許さん…!」
「ベイウッド!そいつは強えぞ!気をつけろ!」
ガットンが言った。ベイウッドは黙ってうなずいた。
「はあ!」
グリーズが攻撃してきた。しかしベイウッドはガットンが作った魔法の盾で攻撃を防いだ。
「!?」
グリーズは驚いていた。盾には傷ひとつ入っていない。そして
”ピシッ”
なんとグリーズの爪に亀裂が入った。
「なんだと!?」
「ふん!」
ベイウッドは素早い動きで反撃した。
”ズバア!”
ベイウッドの振るった一撃でグリーズの左腕は切り落とされた。
「ぐおおお!」
グリーズは叫んだ。
「…」
ベイウッドは眼光鋭くグリーズをにらみ続けていた。
「く…」
グリーズは焦った。
「人々の怒りを思い知れ!悪しき者よ!」
「ぐ…ぐあああ!」
グリーズが狂ったように襲い掛かってきた。
「はああ!」
ベイウッドはグリーズの右腕も切り落とした。そして
”ザクッ!”
ベイウッドの持つ銀色に輝く剣はグリーズの胸を貫いた。
「ぐ…ぐぐ…」
グリーズはその場に倒れこんだ。
「ふう」
ベイウッドは剣を鞘に納めた。
「や…やった…やったなベイウッド!さすが伝説の勇者だぜ!よっ、おみごと!」
ガットンは嬉しそうだった。
「おのれ…」
グリーズは悔しそうにつぶやいた。
「思い知ったか、人々の怒りを」
「ふん…な、何が怒りだ…笑わせるな…」
「…」
「き、貴様らの怒りなど…魔王様の怒り…苦しみに比べたら…大したものではないわ…」
「…」
「いいことを教えてやろう…魔王様は…元は人間なのだ…」
「なに!?」
「人間に対する復讐心が…人間を魔王様へと…変えた…」
「…」
「悪の根源は…いつも時代も人間なのだ…人間など…滅びてしまうがいい…ぐふっ!」
グリーズは息絶えた。
「…」
ベイウッドはグリーズの意味深な言葉に、しばらく立ち尽くした。
「ベイウッドよ、よくやった」
「グラナディ王…」
「おっと、ちょっと失礼するぜ」
突然、ガットンが王の間から出て行った。その後、気絶していたもののサイラスはなんとか命を取りとめた。そしてガランは丁重に葬られた。チェイサーとチェスターはずっと無言だった。
グラン城、城下町。
「俺の馬は無事かなあ…」
どうやらガットンは自分の馬のことが心配だったようだ。
「俺の…ん?あ、あれは…?」
ガットンは何かを見つけた。そう。倒れているノルッドとファラオたちだ。
「ノルッド!お前…!」
「へへへ…サスケか…俺としたことが…ドジっちまったぜ…」
「ノルッド…」
「ガットン!王はどうなった?ベイウッドは…?」
「ファラオの旦那…ええ、王様は無事ですよ。あのでかい魔物もベイウッドがやっつけてくれましたし」
「そうか…」
「そんなことより…ノルッド…大丈夫か…!」
「へへへ…見ての通りだ。あんまり大丈夫じゃねえな…」
「ノルッド!」
「ガットンよ、ノルッドを知っているのか?」
「え?ええ、昔ちょっと…」
ガットンはファラオに昔のことを簡単に説明した。
「そうか…そんなことが…」
「ノルッド…しっかりするんだ!」
「サスケ…俺はもう駄目だ…。けど、へへへ、最後にお前に会えて、ファラオ様の命もお助けできて、よかったぜ…俺みたいな人間でも…人様の役に立てるんだって…な…」
「何を言うかノルッド!お前は立派に戦った!まぎれもない勇者だぞ!ノルッド!」
「ファラオ様…ありがとうございます」
「ノルッドさん…」
サーラは悲しそうだった。
「サスケ…」
「なんだ?」
「来世で…また会おう…」
「ノルッド!」
「…」
「ノルッドー!」
その後、ノルッドの目が開くことはなかった。
多大なる犠牲者を出しながらも、からくも勝利した人々。しかしそれは勝利と呼ぶにはあまりにも無残な光景だった。
残るは魔王デス・フェニックスただひとり。
果たしてその強さは?ベイウッドは勝つことが出来るのか…?
★つづく…
よろしくお願いします★