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風の通る街

ある日僕は、風になった。

街を吹き抜ける、冷たい風。

木々の隙間をぬけ、街へ下ってゆく。

商店街を通って、裏路地へ入る。

行き交う人々の頬を撫で、進んでゆく。


「今日は、どこへ行こうか。」


そんなことを考えていたら、ある丘にたどり着いた。小さな草花が静かに揺れる、海岸沿いの丘。そこには人が立っていた。たった一人で遠くに広がる海を眺めている。僕がそばに寄ると、靡いた髪を避けながらこちらを振り向いた。


「何をしているの?」


僕が尋ねる。


「見ているの。」


その人は答える。

僕は再び尋ねる。


「何を見ているの?」


それにその人はまた答える。


「遠い国。ここよりもずっと広くて、暖かくて、優しい国。」


そんな場所がこの海の先にあるのだろうか。

僕の目には見えない。ただ広く、青い海しか見えない。その人は僕に尋ねた。


「あなた、名前はなんて言うの?」


「僕は風だよ」


その人は首を振った。


「違うわ。それはあなたの種類の名前でしょう?それじゃあ、私が私のことを人だと言うのと同じよ。あなた自身の名前を教えて。」


僕は困った。

僕はそれを知らない。

黙っているとその人は言った。


「もしかして、まだないの?」


僕は小さく頷いた。

この世界に生まれてから、僕は僕が風であることしか知らないのだ。名前なんてものはよく分からない。


「それなら、私がつけてあげる。」


その人は笑って言った。

この人は名前を作ることができるのか。

僕はこの人をすごい人だと思った。もしかしたら僕が人だと思っているこの人は神様なのかもしれない。

その人は少し唸って考えた後に


「リータ、なんてどうかしら。」


僕は頷く。なんだか素敵な響きだ。

その人は嬉しそうに言った。


「決まりね!あなたは今日からリータ。

私はルテア。また今度会いましょう。」


そう言って彼女は街へ向かっていった。

リータ。それが今日からの僕の名前。

僕は嬉しくなっていつもより強く駆け回った。

すると僕の周りに大きな風の渦ができて、たくさんの小さな花びらが空へ舞い上がった。

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