最終話 終身伴侶業務の実行と未来のノイズ
会場を後にした僕たちは、マリアンヌ嬢との契約を破棄し、彼女に『契約不履行に基づく損害賠償請求書』を送付する、『最終業務』を遂行した。
この処理は僕の『感情的支出ゼロ』を維持した完璧なものである。
しかし、僕の心の中の『内部システム』は、もはや正常に稼働していなかった。
アメリアという『ノイズ』が、マリアンヌ嬢の『悪意』という外部リスクを排除する上で『最も有効な防御ツール』であったことをデータで証明できる。
だが、僕の心を満たしているのは『業務上の成功』による満足感ではない。
――僕はアメリアの『予測不能な笑顔』を『恒常的なノイズ』として永続的に僕の隣に置きたい。
アメリアに対する『守りたい』『そばにいてほしい』という強い感情を、もはや『業務上の評価』として偽装することができなかったからだ。
執務室で『公爵家業務遂行マニュアル』の最終ページを開く。そこに新たな項目を書き加えることにした。
項目101:『感情的動揺』の発生源を公爵家の『終身伴侶業務』として正式に契約する。この業務は『永遠のノイズ』を伴う最も高リスクな業務であり、『完全な幸福』を目標とする。
これは父上と母上の愛とは違う。
『感情を排除する愛』ではなく『感情を受け入れる愛』。
そして、僕の人生にとって最も『効率的な幸福』をもたらす究極の契約だと確信している。
アメリアを執務室に呼び出すと、彼女は僕の『最終業務』に涙を溜めた瞳で見上げてきた。
「あ、あわわ……ごめんなさい! わ、私、何かまた失敗を……?」
僕が一晩かけて作成した、『終身伴侶業務の実行に関する契約書』を差し出す。
「アメリア、貴女を僕の『終身伴侶業務パートナー』として雇用します。契約内容は以下の通りであります」
僕は冷静に、しかし情熱を込めて彼女に契約内容を読み聞かせる。
「•第一条: 貴女は僕の『完璧な秩序を常に予測不能なノイズで動かし続ける』という、最も高リスクな業務を終身で遂行すること。
•最終条: この契約は『愛』という最も困難なリスクを僕の意志で引き受けるための契約であります。アメリア、貴女の業務遂行への情熱を僕に永遠に捧げてください」
アメリアは僕の告白(契約)の意味を理解すると、大粒の涙を流しながら契約書にサインをした。
「あ、あわわ……ごめんなさい! で、でも、ルーク様とのノイズまみれの業務を喜んで遂行いたします!」
アメリアを強く抱きしめ、彼女の額に地味で事務的な、しかし情熱に満ちたキスをした。
数年後。
僕たちの間に長男が誕生した。
僕は、彼にルーク・ジュニアという最も『効率的で地味な名前』を名付けた。
しかし、そのルーク・ジュニアはアメリア譲りの予測不能なノイズを公爵邸にもたらすことになった。
ある日、ルーク・ジュニアは僕の丸メガネを拾い上げると、焼き菓子についていた生クリームをレンズにべったりと付着させた。
僕はメガネを外し、クリームのついたレンズを見る。そのレンズの奥でルーク・ジュニアは、アメリアと同じ満面の予測不能な笑顔を浮かべていた。
僕は、そのノイズを前にマニュアルを開こうとはしなかった。
ただ、静かに微笑む。
『愛』とは『予測不能なノイズ』を『最も確かな幸福』として受け入れる、究極の業務契約だと分かったから。
〜完〜
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
話の終着点が難しすぎましたが、これにて完結です。
しかし、ルークジュニアの話は【後日譚】として、11月7日17時に投稿します! そして、文官アルクを主役とした新しい物語を執筆してますので、投稿前に活動報告にて書かせていただきます。
そして最後にお願いです!
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よろしくお願いしますm(__)m
それではまた( ´∀`)ノ




