第十九話 王都潜入と『偽りの婚約者』業務
「アメリアには、僕の『偽りの婚約者』という業務を委託します。マリアンヌ嬢に『業務遂行能力ゼロ』の貴女が、僕の隣にいることで、彼女への最大の精神的ノイズとなるでしょうから」
「あ、あわわ……わ、私が婚約者なんて非効率の極みであります! で、でも……ルーク様の領地を守るためなら婚約者として頑張ります!」
僕たちはマリアンヌ嬢が盗み出した書類の保管場所を特定するため、アメリアを連れて王都へ向かうという、極めて高リスクな業務を遂行している。
王都の社交界に『地味で完璧な公爵』と、『ドジでノイズな見習い秘書』という、異色カップルが姿を現す。
僕たちは、マリアンヌが主催する慈善パーティに潜入。社交界に慣れないアメリアは、その優雅な雰囲気の中で、見事に次々と失敗を重ねていった。
貴族の脚にシャンパンを零す。
高価な花瓶を倒す。
そのたびに僕は『反射的な防御業務』として、アメリアを抱きとめ、『公爵家業務遂行マニュアル』を盾に、貴族からの非難を完璧に論破していった。
「失礼、彼女の行動は『予測不能なノイズ』ですが、この程度の損害は『公爵家の感情的支出』に含まれます。貴方方の非難は『業務妨害』に相当します」と。
人前ではアメリアを冷徹な論理で守る僕。しかし、人目のない場所ではアメリアが緊張で震える手を、そっと握りしめていた。
――この手の温かさはマニュアルにはない。
しかし『防御業務』の遂行において最も必要な『自己鎮静化ツール』でなのである。
マリアンヌは、僕がアメリアを『偽りの婚約者』として連れてきたことに激怒する。
思惑通りの展開だ。
「ルーク様! あんな無能なノイズを隣に置くなんて、貴方の『業務遂行能力』が疑われますわ! わたくしがこのパーティで貴方を『糾弾』いたします!」
マリアンヌ嬢はパーティの舞台で、公爵家の水道契約の欠陥、そして僕がその書類を『紛失した事実』を公衆の面前で暴露しようと企てる。
しかし、僕の『秘密の調査業務』は、すでに完了していた。
僕は、マリアンヌ嬢が盗み出した書類を、彼女が最も信頼する侍女のドレスの裾に縫いつけ、隠すという推理を立てていた。
そして、マリアンヌが舞台に上がろうとした瞬間、アメリアが『予測不能な行動』に出る。
「あ、あわわ……ごめんなさい! マリアンヌ様、ドレスに糸くずがついています!」
アメリアは謝罪の言葉と共に、マリアンヌのドレスに駆け寄り、縫いつけられた書類の端をわざと公衆の面前で引きちぎった。
書類がバラバラと舞い落ちる。
そこには盗まれた水道契約書の『原本』と『マリアンヌの直筆の指示メモ』が混ざっていた。
マリアンヌの顔から血の気が失せる。
彼女の『完璧な悪役令嬢業務』は、アメリアの『感情的な無計画さ』というノイズによって、完全に崩壊したからだ。
僕は感情を排した冷静な声で、マリアンヌに告げる。
「マリアンヌ嬢、貴女の行為は『公爵家に対する業務妨害』と『国家インフラへのテロ行為未遂』に相当します。貴女の『業務遂行能力』は最低評価です」
会場は、マリアンヌの泣き崩れる姿と、僕の完璧な論理に静まり返っていた。




