第十七話 伯爵令嬢の『ノイズ攻撃』
マリアンヌは、僕との婚約の可能性を探るため、公爵邸への出入りを増やすようになった。そして、その裏で彼女はアメリアに対する『執拗な嫌がらせ業務』を開始していた。
アメリアの業務道具を隠す。
彼女の掃除した場所をわざと汚す。
そしてアメリアが業務に失敗するたびに、僕の前で『彼女の失敗レポート』を詳細に読み上げ、解雇を迫る。
「ルーク様、この一週間でアメリアは『業務用ナイフの紛失』を二回、『食器の破損』を四回発生させています。『費用対効果』を考えれば、即座に解雇すべきですわ」
マリアンヌの報告は、すべてデータに基づいており、完璧な正論だった。しかし彼女がアメリアを追い詰める姿を見るたび、僕の心にはマニュアルにない『防御本能』が湧き上がった。
僕は、「マリアンヌ嬢、貴女の報告は正確です。しかし彼女の『感情的貢献度』は、まだ計測途中ですので、解雇は保留します」と、『定義のない項目』を持ち出して、マリアンヌを退ける。
しかし僕のその態度に、マリアンヌは激怒した。
彼女はアメリアこそが、僕と公爵家の『最も大きなノイズ』であると確信し、より陰湿な手段に出始めた。
ある日、アメリアが担当した『最高級紅茶セラーの管理』に致命的なミスが発生した。すべての紅茶の茶葉から異臭が放たれていた。
アメリアは泣き崩れながら口を開く。
「あ、あわわ……ごめんなさい! ごめんなさい!私、ちゃんと温度と湿度を記録したのに予測できてませんでした!」
紅茶の損失は公爵家にとって『感情的支出ゼロ』では済まされない、巨額の損害だった。
マリアンヌは勝利を確信した笑みを浮かべ、僕に解雇を再び迫る。
「ルーク様! これこそが『ノイズの最終的な結末』です! 彼女を解雇し、わたくしとの『完璧な契約』を結ぶべきですわ!」
僕は茶葉の残骸と、泣き崩れるアメリアを見る。
――おかしい。アメリアの性格上、管理を間違えることはあり得る。しかし、この『異臭』は特定の薬品によるものであり、単なるヒューマンエラーではない。
(まさか、これはマリアンヌの『陰湿な業務攻撃』?)
そう僕は推理し始めた。
『完璧な業務遂行計画』は崩壊しつつあったが、その崩壊の中で、アメリアを守るというマニュアル外の『情熱』を同時に覚えた。
アメリアの解雇を拒否する。そして、マリアンヌの陰謀を暴くための『秘密の調査業務』に着手することにした。
「アメリア、貴女の業務の失敗は『外部からの不正な干渉』によるものと推測されます。そこで貴女には『おとり業務』を遂行してもらいます」
「あ、あわわ……お、おとりですか? でも、ルーク様のためなら頑張ります!」
こうして始まった、マリアンヌ嬢の『実態調査』のため、僕はアメリアの業務をわざとマリアンヌにリークし、次にどのような嫌がらせを仕掛けてくるか、予測を始めた。
僕とアメリアは、深夜の公爵邸で懐中電灯片手に『悪役令嬢の痕跡』を探して潜入捜査を行う。
その過程で、二人の間には『共同作業による信頼感』というマニュアル外のノイズが発生する。
――二人きりの深夜業務は効率的ではない。
しかし、彼女の驚きや怯えを見るたびに、僕の『守りたいという感情的支出』が計上される。この感情こそが、僕の『調査業務への情熱』を高めている。
僕はアメリアが普段使用する『掃除用具』の中に、マリアンヌが持ち込んだ『特定の薬品』の痕跡を発見。そして、マリアンヌの業務レポートに記載された『アメリアの業務時間外の行動』の記録が、監視行為であることを証明する決定的な証拠を手に入れることができた。




