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緑の森の英雄〜前編〜



 葵と結菜がドラゴンロードの討伐に成功した1週間後……





「こんばんは、後輩諸君。ボクの声は聞こえているのかな?」




 :こんばんはー


 :マイクテスOK


 :ゴブリンでも分かるオークナイトの倒し方みたよー




 葵は無事に配信がスタートしたことに胸を撫で下ろす。前回──初めて配信した日から10日が経過している。ドラゴンロード討伐後も10分弱の動画や1分程度の自己紹介や下層のモンスターの解説を行なっていたが配信はしていなかった。




 初めて配信してから10日も配信をしないダンジョン配信者なんて聞いたこともない。A級冒険者の希少性も合わせて配信を続けていればもっと簡単に登録者も伸びたのにと僕は頭を抱える。




 ──とはいえ既に5万人を突破しているのだけども。




「今日はぁ、皆さんに紹介したい人がいまーす。今回ギルドの依頼でパーティをボクがパーティを組むことになってしまったナタネさんでーす。」




 結菜は器用にも鎧の頭部だけ外し、顔を見せる。




 僕としては結菜もまだ高校生なので身バレ防止のために全身鎧の方がいいのではと助言した、けど結菜曰く、"先輩が顔出ししてるのに私がしないなんて有りえません"だってさ。これが僕のストーカーでなければ嬉しいのだけどな。




「はーい、ご紹介に預かりましたナタネです。私は先輩のカノ──」


「ちょっと、まったー!?」




 :がたっ


 :百合ですか?


 :ひまわりと菜の花...いいですねぇ




 ちょ、ちょっと待ってくれ。なんてこと言ってくれたんだ結菜…それに視聴者も乗るな!配信者の恋人問題なんて冗談でも炎上するじゃないか。




「ボクとナタネさんはそんな関係じゃないですよぉ。」




「ひまわりさん…あんなに熱い夜を一緒に過ごしたのになんでそんなひどいことを言うの?」




 :ひまわりまさかの◯り捨て


 :これはまずいですよぉ


 :私は一向にかまわんッッ




 こ、コメント欄が荒れてる…!?


 どうにか落ち着かせなければ!




 結局葵はコメント欄と結菜を落ち着かせるのに10分もかかった。





 ***




「はい、ということでナタネさんはただのパーティメンバーです。それに熱い夜はドラゴンロードを共に倒しただけ。これで終わり!」




 :ひまわりさん、焦りまくりで草


 :なにげにドラゴンロードをスルー


 :というかドラゴンロードって何?攻略サイトに乗ってないよ




 結菜がふくれっ面を、コメント欄が驚きと呆れが半々の反応になる。




 ここらへんで次に行かないと時間が足りなくなりそう。




「今日は亡霊の調査に行きまーす。前回ボクが戦ってゲットした肥前忠広も対人型では使ったことないから刀縛りで攻略していきます。」




「はーい」




 :ここでの亡霊って英霊系統のことだよね?


 :そうなんじゃない?


 :英霊系の亡霊って最低でもB級冒険者のトリオで戦うのが推奨されてるんやが




 またもコメント欄の進みが早くなるが葵は気にしない。今日はギルドの依頼で訪れているので態度だけでも真面目にやろうと決めている。




「右方向からタイガーソルジャーの班が接近してくるよー。ナタネ、二匹頼むよ。あとはボクがやる。」




 タイガーソルジャーの小規模な群れが接近してきたので相対する。タイガーソルジャーは速度と連携特化のモンスターなので逃げ回ると罠にかけられる可能性があるのでそのまま撃破したほうが速いと判断した。




「了解です先輩!こいよ猫カス。」




 結菜が何か暴言を吐いた気がするが気のせいだろう。


 きっと他人のチャンネルで暴言は言わないはず。




 ***




 下層の2層に着き、歩き回る。他の冒険者から異変が報告されたのはこの階層なので警戒状態は解かない。


 すると木の下で俯いて座っているフードを被った男を見つけた。




「すいませーん、大丈夫ですか?」




 結菜が声を掛ける。さすがはコミュ強、知らない人でもどんどん話しかけるようだ。




「あぁ?うぃ、すまん。君たちゃ誰や?」




 フードを被った男がふらつきながら立ち上がり、こちらを一瞥する。その瞳は感情を宿していない狩人の目のようだ。




「動画のカメラだけ一旦切りますね。ここ、下層だと思うんですけど転移罠にはまりました?危ないですよ。」




「そうなのか、おじさんちょっと迷っちゃってね。少し体力が心許ないから、もしよければ回復ポーションを分けてくれないかい?」




 回復ポーション?たしかにありはするけど他の冒険者に回復ポーションをねだるのは明確なマナー違反だ。それに福部が出ている今、僕以外の冒険者で下層をソロ攻略できるやつなど一人もいないはず。そうではないことを祈りながら僕はフードを被ったおじさんに問う。




「おじさん、名前お伺いしてもいいですか?」




 一瞬苦い顔をした後、答える。




「あー、うん。まぁばれるよな。あいつももう少し筋肉じゃなくて頭使ってほしいわ。で、名前だっけ。ロビン・フッドだ。」




 その答えを聞いた瞬間、全力で接近して刀を振るう。技術なしの上段から素直に振り下ろす袈裟斬りだったが後ろに下がられて避けられる。ロビン・フッドが小型の弓で矢をつがえる。




 ──ひゅっ




「てや!」




 放たれた矢はぎりぎりで滑り込んだ結菜の大盾に阻まれ、ロビン・フッドは再び距離を取った。




「ナタネ、三十秒だけ耐えてくれ。詠唱を終わらせる。」




 ロビン・フッドは史実通りなら弓がメイン武器。アーチャー相手に一撃特化の能力アビリティは悪手だ。幸い、今の武器は刀なので速度に振れる。よし、あれにするか。




「思い描くは動きと量感の習作。ジャコモ・バッラよりあらゆるものは動き、走り素早く変化する。」




 詠唱を終え、ロビン・フッドに最速の突きを繰り出す。頬に傷はついたが避けられる。ロビンフッドが再び弓を取り出そうとするが無理な体制で回避しているロビン・フッドを結菜が見逃すはずはない。小弓をひこうとするロビン・フッドを盾で殴りつけ頭を地面に押し付ける。




必死に抵抗するロビンフッドに駆け寄り刀を構える。




 ──っふ、しゅぱ。




 押さえつけられたらロビン・フッドといえども何もできない。僕が首を刎ね飛ばし、終わった──はずだった。





 パチ、パチ、パチ。




「よくできました。分身を倒されると思わなかったよ。一応私の半分くらいの実力はあったんだけどね」




 頭上から声が降る。


 見上げると──先ほど倒したはずの男が見下ろしていた。



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