助っ人参戦
手鏡を使い、珊瑚のようなコーラルピンクを唇に引く。ゆりはいろんな色を試すのがいいとアドバイスしてくるが僕は女装が趣味であって見られたいわけでないので一番自然なこの色をいつも使っている。今日の服装はチェック柄のミニスカートにグレーのパーカーだ。いつもパーカーを着ているのは半袖だと男性特有の腕の筋肉質だったり肩幅が誤魔化せないからだ。
今日は正式にギルドからの依頼を受ける日なのでいつもより少しおめかしをする。いつもはリップとファンデーションで済ませているので新鮮だ。支部長とは僕がギルドに入った頃からの仲である。もちろん僕が女装するのも知っていて女装の時も取り繕わずに話せる数少ない知り合いだ。
冒険者ギルドの中に入っていくと受付嬢が奥に手招きしてきた。僕は軽くスッキプしながらついていく。周りの冒険者達の視線は僕の太ももに釘付けだ。僕は男なのだがそれでも視線への不快感を感じる。女性だとなおさらだろうか
そんなことを考えていると支部長室についた。扉を三回叩き、入室する。
そこには支部長と――全身鎧の騎士が立っていた。
「昨日ぶりですね、日向さん。私と貴方の仲なので世間話は必要ないでしょう。依頼について話す前に紹介したい人がいます。この方は先日、日向さんの依頼に協力を要請した白坂さんだ。」
そういえば支部長そんなこと言ってたかも。恥ずかしながらS級のことで完全に頭から抜けていたが...そういえば白坂って昨日会った結菜さんと同じ苗字だな。とはいえ白坂なんて全国に何万人もいるし、眼の前の白坂さんは結菜さんと違って大柄だ。少なくとも200cmはある。
「彼女はあまり喋らないので代わりに私が彼女の戦闘スタイルについて説明します。彼女の系統は『タンク』、今は収納していますが大盾を所持していて主な武器メインウェポンは魔銃ですが大盾でモンスターを倒すことが主だそうです。」
眼の前の騎士は女性だったようだ。女性で『タンク』はとても珍しい、三文字以上のスキルか二文字の特殊当たり枠かもしれない。僕はRPG風に言えば紙装甲の素早さ特化のシーフ役だろう。
「さぁ、ここにいてもしょうがない。今日はお互いの連携を高めるためにもダンジョンに潜るなりしなさい。ちなみに今、リザードマンの鱗が品薄だから私は下層の2層がおすすめかなぁ。」
あくまで自然な流れで要望を通すやりて支部長であった。
***
僕達は雷豹もびっくりなスピードで下層の1層まで駆け下りてきた。ちなみに雷豹は中層のモンスターの中だとトップクラスで速い。
「うーん、ここらへんでいいかな。人もいないし」
驚くことに今まで一言も発していなかった白坂さんが急に喋り始めた。鎧の中を探るように手を入れて何かをカチッと押したようだ。
鎧が解かれ始めそこから出てきたのは200cmの女性ではなく――結菜さんだった
僕は目を見開いて結菜さんを見つめる。まさか昨日会った隣人がB級冒険者なんて信じられない。それに今の僕は"ボク"の状態だ。配信者としてのひまわりが日向葵と結びつけられると不味い。
僕は"ボク"になりきろうと決意して結菜さんの方に向く。
「白坂さん、今日は支部長の助言に従って―」
「どうしたんですか?先輩♡そんな女声だしてどうしたんですかぁ?」
「っ!」
結菜さんは本当の意味で僕とボクの"全て"を知っているようだ。昨日までの礼儀正しい結菜さんはどこに行ったのだろう?これじゃまるで小悪魔ピクシーではないか。今考えれば初対面で"先輩"なんて絶対に呼ばない。
「いつからだ?いつからボク、いや僕のことを知っていた?」
結菜さんは可愛らしく首をかしげる。今ではピクシーの『誘惑』としか思えない。
「いつからなんて関係あるんですか?口の利き方には気をつけた方がいいですよぉ。私は先輩の"全部"を知っているんですから。ひまわりも意到筆随のことも百合のことも知っていますから。逃げないでくださいよ♡」
肌の穴という穴から冷や汗が垂れる。この狂人はすべてを知っている。こんな経験は初めてだ。この立場になるまで何度も他の冒険者の嫉妬、やっかみ、羨望、情欲、そして暴力に触れてきたはずなのに、鳥肌が止まらない。僕は震えながら声を絞り出す。
「な、何がしたいんだ?」
小悪魔は嗤う。
「何が?うーん、強いて言うなら先輩と一生居たいです。でも無理矢理はよくないしなぁ。」
「あ、そうだ。今日6層のドラゴンロードに挑戦しましょう。そこで私が先輩にとっても有用であることを示せばいいじゃん。」
僕は結菜さんが言っている意味を1ミリも理解できなかったが従わざるを得ず、ドラゴンロードに挑戦することになった。
***
――ギャオオオオオーーー!!!!
怒り狂うドラゴンロードと対峙する。
「ほんっっとうにやるのか!?」
「勝ったらパーティ組みましょう!」
「負けたら?」
「潔く先輩と一緒に天国に行きますよ。」
ここまで来たらあんな頭のおかしい狂人結菜さんとも協力しなければこちらが死ぬ。頭を巡らせ最適解を探る。
「想い描くはムンクの叫び、かの者の世界を、想像を超えろ、超えさせてくれぇ!あぁ、神が見えるよ。」
麻◯を脳に直接ぶっ刺したよな感覚が身体を襲う。身体のリミットが一時解除され大幅に強化されていることを狂気のなかでも生きている冷静な部分が告げる。
「結菜、ついてこいよ。」
そう言って僕は大鎌を構える。今回は特大のモンスターが相手だ、長引けば長引くほどこちらに不利になる。一瞬で片をつけるつもりで駆け出す。
「先輩!背中を。」
結菜が背中をいいところに出してくれたので蹴って空を舞う。そのまま重力を味方につけ、ドラゴンロードの目を縦に切り裂く。そして再生しにくいように柄の部分を刺し込む。今までで一番調子がいいかもしれない、身体が思ったように動く。
ドラゴンロードが絶叫を上げ、咆哮を放つ。その咆哮は本来なら聞くもの全てを恐れさせ、硬直させただろう。しかし、かたや麻◯みたいな快感で頭が飛んでるやつとその頭が飛んでるやつを崇拝している女には1ミリも響かない。
着地して再び地面を蹴って咆哮をあげているドラゴンロードの腹に突進する。大鎌を下に構え、上方向に切り裂く。血が溢れ、ドラゴンロードが痛みで狂乱状態に入る。この状態に来ると危険域だ。僕は距離を取るために反対方向に走る。
チッ、チッ、チッ――
後ろから舌を鳴らすような音が聞こえたので振り返ると瀕死のはずのドラゴンロードがこちらに口を開けている。噛みつきも届くわけでないし珍しいなと思いながらもう片方の目を潰しに地を駆けっ――
「危ない!」
結菜に突き飛ばされ、強制的に結菜の後ろに飛ばされる。
ドラゴンロードは口を大きく開け――ブレスを吐いた。
「願わくば人を守るために!『堅牢』展開!」
ドラゴンロードのブレスを必死に大盾で防ぐ結菜の背中は――とても大きかった。




