依頼と隣人
―――とういわけなんだ。」
支部長が"お願い"してきた内容は全ギルド依頼の中でも二番目に緊急性が高いA級の依頼だった。本来、僕自身ギルドに所属しているのでギルドの指名依頼などは受けなければ降格や除名などのペナルティがあるのでわざわざ"お願い"などしなくてもよいのだが今このダンジョン付近にいるA級以上の冒険者が僕しかいないので断られたらまずいということらしい。
僕はほぅとため息を吐く。
「僕が依頼を断ったりすること無いじゃないですか。報酬と条件がきちんとあえば受けますよ。」
支部長が安堵した表情を見せる。
「そうか、ありがたい。日向さんはA級の中でも癖が強くないので本当にいつも助かっている。内容なのだが、単刀直入に言うとこのダンジョンでスタンビードの前兆が見られる。調査と可能なら討伐までお願いしたい。」
スタンビードか...これは厄介だな。他の冒険者は受けたくないだろう。スタンビードの調査など言っているがほぼほぼ討伐依頼みたいなものだ。それにダンジョンの外に出ようとする知性があるモンスターなど面倒でしかない。
スタンビードとは"反逆者"みたいなものだ。知能がある一個体が外の世界に夢見て―といえば聞こえはいいが実際は知性を用いて軍を率いる圧倒的な個だ。オークやゴブリンにそのような個体が出ても問題ないのだが中層以下となると話は変わる。ひとたび地上に出てしまえば一つの市が焼け野原になってもなんら不思議ではない。
「そうですか...僕も6年ほどこの地域にお世話になっているので人肌脱ぎましょう。前提として調査及び討伐中の配信許可、あとドロップアイテムは僕が回収しても大丈夫ですよね?」
僕は前提条件を提示した。もしこれが断られるならスタンビードなど無視してこの街を出ていくつもりだ。
「そうだな、許可しよう。スタンビードの前兆があるモンスターの未公開資料の開示、着手金300万円に加え必要経費もこちらで受け持とう。」
ふむ、前提条件としては中々いいのではないだろうか。ここからは報酬の取り決めなのだが僕はもう受けてもいいと思っている。
「成功報酬は800万円、それと前々から君が望んでいたS級への受験資格などはどうだ?あぁ、あとどこから嗅ぎつけてきたか知らないが一人君の依頼に協力したい物好きがいるようだ。後日紹介しよう。」
僕は目を見開く。
「S級ですって!?本当に受験資格をもらうことが可能なのですか?」
S級の冒険者は日本で6人、世界でも150人程度しかいない冒険者の中のトップオブトップ、冒険者はだれしも憧れる存在なのだ。成功報酬が少なめなのもこの際気にしない。S級になる方が何百倍も価値があるからだ。
「日向さんは依頼を断りませんし、実力自体もA級上位ですしね。」
支部長と細かな条件をすり合わせ契約書にサインをして、鼻歌を歌いながら僕は家への帰路についた。
***
アパートの階段を登りきるとそこには僕と同じくらいの小柄な女の子が玄関の前で立ち尽くしていた。僕は疑問に思い肩を叩く。
「すいません、ここ僕の部屋の前なんですけど...どうかしました?」
小柄な女の子は驚いたように声を上げる。
「ひゃぁい。す、すいません。実は隣に引っ越してきたものでして...挨拶に参りました、白坂結菜です。」
小柄な女の子もとい白坂さんは隣室に引っ越してきた子だったようだ。
「はじめまして、日向葵です。よろしくお願いしますね。」
白坂さんとお互いのことについて軽く喋る。最近は隣人同士の交流も少なくなってきているらしいのでここまで踏み込んで話すのは珍しいのだろうか。白坂さんは僕が通っていた高校に通っているらしく、推薦ですでに大学に受かっているから友達と遊べなく、暇なのでダンジョン配信者をよく見ているようだ。
「日向さんが大学一年生なら私先輩って呼びますね。」
ん?僕が大一なんて伝えたかな。大学のこと話してたしポロッと喋ってたかも。配信でも漏らしてしまった件もある。
帰り際に白坂さんが地元の名産のたぬきの置物をくれた。白坂さんは僕の部屋に置くようにと念を押してきた。もしかしたら幸運の置物なのだろうか。
***
「――、隣人の白坂さんが玄関前にいたから話してたんだ。」
今日の出来事をゆりに話す。ゆりはこの年頃の女の子にしては珍しく反抗期が来ていない、もしかしたら僕に向いてないだけかもしれないが。
「そういえば、今日の配信気をつけてよね。いくら女装しててお兄ちゃんに結びつかないとしても年齢バレはだめだよ。」
ゆりにも注意される。むらさき姉さんにもRUINで指摘されたなぁ。
「先輩で思い出したのだけど、なんでお兄ちゃんは美大に行ったの?」
ゆりに質問され少し悩む。これは僕の能力アビリティに関するのでぼかす事もできるがゆりだって来年の適正測定が不安だろう。初めて人に自分の能力アビリティを伝えるが実の妹なら大丈夫。
「ゆり、今から聞いた話は誰にも言うなよ。僕の持っている能力アビリティは―意到筆随いとうひつずい、それの"解釈"をするために高2の時に美大に行くことにしたんだ。」
意到筆随の本来の意味は心の思いのままに自然と筆が進むことらしい。けど僕は絵を思い浮かべそれになぞらえることでその絵に込められた想いや技術を戦闘にトレースできるのではと思い、そのとおりに"解釈"したら使えるようになった。もちろんその絵を思い浮かべている時は想いに反する行動については強化どころか力が制限される。
某有名漫画では"縛り"だっけな。
一通りゆりに話すと彼女の中で一区切りついたようでゆっくりと喋り始めた。
「本当はね、お兄ちゃんがA級冒険者だし私も冒険者にならないととか思っていたんだけどお兄ちゃんの話を聞いて能力アビリティについて学びたくなった。もし測定で四文字が出たらさすがに迷うけど大学はダンジョン部に行こうと思う!」
ゆりの笑顔は純粋無垢なかわいらしい笑顔だった。
【SIDE ???】
「ふへ、ふへへへへ。先輩の秘密、先輩の秘密。やっぱり引っ越してきてよかった」
部屋で一人――は笑みを浮かべる。
「先輩♡またすぐ会えますからね。」




