肥前忠広
青い粒子となって消えた岡田以蔵が使用していた一振りの太刀が寝かされていた。これは―ドロップアイテムだろうか?僕はおそるおそる近寄る。
周囲を確認しても罠トラップの類は見当たらない。
僕は自然と太刀を手に取り―刀身を抜いた。
美しい――
それは幾多の血を吸ってきたはずなのに、その刃文は水面に浮かぶ月影のように揺らめいていた。
「こーれはとんでもないもの当ててしまったねぇ。もしかしたらボク、この刀に魅入られてしまったかもな」
僕は口調を崩さないようにするのが精一杯で口元が緩むのが止まらなかった。
:えっ、表情やばすぎ
:そりゃそうだろw
:何%引き当ててんだよ!?
:ちなみに国立ダンジョン研究部によると参考値でも0.002%らしい
まじか...たしかに今まで百くらいは英雄系の亡霊を倒してきているが今回を含めても二度目だ。視聴者によると500回に一度出るか出ないかの確率なので僕はよっぽど幸運なのだろう。
「いやぁすごいわ、これは。亡霊倒したらやめようかと思ってたけど、肥前忠広ちゃんの性能確認ついでにいくつか質問答えていくよ。今のボクは気分いいからねぇ。」
:うきうきでワロタ
:肥前忠広もマイナーとはいえ妖刀の類だから気をつけたほうがいいのでは
:美少女×刀は最強
視聴者も賛否分かれてるけど見たい方が優勢のようだ。僕も早く試したくてウズウズしているのも事実。それにいくら女装しているからといって普通は男の感性なので刀とか厨二感あふれるものにロマンを感じる。
「新しい武器だし安全マージンとってぇ、ドラゴンソルジャーで力試しと洒落込もうじゃぁないか。」
***
:...
:(絶句)
:嘘...やろ
僕は下層一層にあるドラゴン砦に向かいドラゴンソルジャーと戦闘を開始した。まぁ戦闘とも呼べない一方的な虐殺だけど。僕が想像していた以上に肥前忠広の刻印が想像以上に優秀なのもあってほぼほぼ苦戦していない。
「えー、なんだって?その刀の刻印、どの系統ですかだって。一つは長さとそれに比例して重さも変わるやつかな。これは固有刻印だと思うよ。あとは丈夫と連斬鋭化。」
:ほえーそんなのも分かるんや
:いや普通は鑑定しないとわからん。この人がズレてるだけ
とある歴史学者:これは私の完全な考察なのだが、岡田以蔵が愛用していた刀は詳しく分かってないのだ。脇差しとも肥前忠広のような太刀とも言われているから長さと重さも変えられるのではないだろうか。
:二人目のネームドきちゃー
おお、最高位のメンバーシップに二人も入ってくれたのか。そんな事を考えながら大太刀サイズの肥前忠広でドラゴンソルジャーを正面から真っ二つにする。
「そろそろドラゴンソルジャーも減ってきたのでマシュマロコーナー行きま〜す。はい、1つ目は」
そう言いながら僕はドローンに示された匿名の質問の中から一つを選ぶ。
「その大鎌かっこいいです。どこで手に入りましたか?だって」
元々何処かで愛用の大鎌について解説する予定な上に今さっき英雄系統の亡霊を倒してきたからタイムリーかな。
:たしかにそれ気になる。
:武骨だけどいいよね
「これはねぇ恥ずかしながらまだボクが若輩のころの話だね。あれは一年前――」
僕は今からちょうど一年前、下層にやっと慣れてきていて少し調子に乗っていたころだった。下層の二層の転移罠に飛ばされ、ついたのは亡霊の部屋。普通の亡霊だったら良かったのだが最悪なことに引き当てたのは亡霊の中でも厄介な厄災の亡霊カラミティレイスの部屋だったのだ。そこで相対したのは西欧で有名なグリムリーパー、"死神"と呼ばれる亡霊が召喚された。
幸いにもグリムリーパーは中世からの民間伝承なので比較的マシな部類でもあったのだがその時の僕では実力不足。土壇場で能力アビリティの拡大解釈と付着が出来なければ僕は今頃死んでいただろう。
そのグリムリーパーが落としたのがこの大鎌だと能力アビリティのことはぼかして説明した。
:え、じゃあ固有武器2つ目?
:固有武器2つって世界初じゃね?
:それにグリムリーパーって超大物じゃん
「そうですぅー、流石にボクでも死にかけました。ということで次。これでラストかなぁ」
再びドローンにマシュマロを再び映してもらい、今度は自動で選ぶ。
『はじめまして、ひまわりちゃんはおいくつでしょうか?』
:これはいかんでしょ
:女性に年齢聞くのはNG
僕もこの質問が選ばれた時、少し驚いた。デリカシーないのだろうか。悩ましいけど男な上にダンジョン外では成人しているので素直に答えることにした。
「うーん、迷ったけどぶっちゃけるわ。今は19、ぴちぴちの大学1年生でーす」
そう言いながらギルドカードの写真と名前を隠して見せる。
:その声でその年だと...
:え、その見た目で成人してるのま?
:なんかいろいろ情報が混ざってよく分からない
コメント欄が混乱しているようだ。声は男なので年齢よりも落ち着いてみるのだろう。見た目は残念ながら身長が低いうえに男だから胸も無い...
ノムさん:ひまわりちゃーん。年齢はだめだよ!
:草
:保護者ww
ひとしきりコメント欄が荒れた後に僕は締めの挨拶をして配信を切った。
***
地上に戻り、ドロップアイテムを換金しているとギルド支部長が近づいてきた。
ギルド支部長は申し訳なさそうに僕に向かって"お願い"をしてきた。
「日向さん、配信見ましたよ。頼みがあるのだけど――」
こんにちは、モロ煮付けです。これでプロローグ的なのが終わりました。次回掲示板回をはさんで次章の彷徨う英霊編を執筆中です。今後もこの作品をご愛読ください。
英霊って既視感ありますよね。某有名シリーズに少し影響受けてます。




