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初配信

「こんばんはぁ、後輩諸君。ボクの名前はひまわりだ。今日はてきとーにダンジョンで配信するから見てってくれよぉ。」




 よし、挨拶は完璧に決まった。呼び名が後輩なのは他の呼び方よりも"ボク"がキャラを作りやすいから。むらさき姉が買ってくれた浮遊型のカメラはなんとコメントを自動で読み上げてくれる耐久性バッチリの最新型だ。さっそく読み上げてくれているので意識をカメラの方に傾けた。




 :え、ノムさんの配信見たときから思ったけどめちゃ可愛くねw


 :この喋り方...まさかダウナー系だと言うのか!


 :パーカー着てるのまじ萌えるわ




 今日の僕は黒いパーカを着用している。僕のメイン武器の大鎌から着想を得て、ふりふりの洋服よりも黒パーカーの方がキャラに合うのではとむらさき姉からの助言に従っているので今の女装要素は化粧とウィッグだけなのだ。




 ゆりは僕が可愛らしい服を着ないことに大変ご立腹だったけど...




「改めて挨拶だ。想い描くは真夜中の星空、星が光り輝くとともに夜の闇が付き従う。星を輝かせるのもまた闇。光にも負けない闇を魅せるような生き方をしたい。闇を魅せる配信を今日から見せるから楽しんでくれよぉ。」




 ふぅ、無事に冒頭の挨拶が決まった。配信を続けていくうちに長い挨拶は面倒に感じて省略だったりやらなくなる配信者も多いようだが僕は少なくとも初回はきちんと挨拶をしてみたかったのだ。むらさき姉さんの勧めで配信を見始めたのだけどもこういう冒頭の台詞に憧れて、やることにしたのだ。それに僕の能力アビリティともこの挨拶は相性がいいようだしね。




 :か、かっこよ。


 :低音でこのセリフは反則。脳が震えるわ。


 :ワタシ オンナ ダケド ホレタ




 視聴者の反応をみるに大分手応えを感じた。もし一週間丸々かけて考えたセリフが否定されたら僕も心にきただろう。とういうことで挨拶はこの辺にしてと




「今日は初配信だし視聴者にボクが行って欲しい階層とかを募ろうと思うんだぁ〜


 それに加えてこんな感じで雑談とかもつずけていくよぉ。」




 :まじか。


 :下層レベルで配信してくれる人なんてそうそういないから㊙映像的なの映るかも


 :前回ドラゴンナイト倒してたし、同じダンジョンならオークビスカウント子爵とかは候補になるかな?




 オークビスカウトか...ありだけど初配信としてはインパクトが低いかな。それだったら近接系のオークロード将軍とかのほうが映りがいいからなるべく近接系がいい。




 先輩の後輩なる者:先輩、下層六層の剣豪亡霊とかどうですか?




 下層六層の英雄系の亡霊は一種の力試し的なモンスターだ。英雄系の亡霊はランダムで過去の偉人を身に纏い、戦闘スタイルもまるっきり変わるので力試しと呼ばれている。さらに別称として運試しとも呼ぶ。過去の英雄がランダムで呼ばれるので危険度も上振れが激しい、さらに亡霊を倒すと超低確率でその英雄由来の武器を落とすことがあるのもそう呼ばれる由縁だろう。




「おぉ、もう一番上のメンバーシップ入っている人がいるねぇ。たしかに亡霊剣豪は"あり"だなぁ。うん、そうしよう。亡霊剣豪、君にぃ決めた!」




 :ファ、初配信で一番上のメンシプに入る人なんているんや...


 :剣豪亡霊とか素材も落とさないしまじでゴミモンやと思ったけど動画映えしそうやしなぁ




 下層までの道のりはほぼ交戦しないで駆け抜ける。これも僕のもらった能力のおかげで、視聴者からは驚かれた。詳しく能力について話したいのだが僕のは種が分かると対人殺り合いで不利になる。ダンジョンは巨額の富とまだ見ぬ未知を内包しているがそれを掠め取ろうとしてくる人は多い。かくいう僕も殺しこそないものの何回も対人経験はある。そんなことを話したり考えているうちに下層の六層についてしまった。戦う前に雑談ついでに休憩を取る。








「よぉ〜し。いっちょやりますか。今回は誰が来るかなぁ。」




 僕はポーチから大鎌を出し、構える。隅でうずくまっていた亡霊がこちらを認識すると同時に形が崩れ再構築されていく。検証班みたいな人たちが変身中に攻撃したらどうなるのか試したらドロップアイテムが一つも落ちなかったらしい。何者でもない亡霊はなにも残らないんだろうなぁと僕は思ったりもした。




 今回は...くそ、はずれだ。禍々しい気配を纏い一本の刀とともに現れたのは幕末で暗殺及び辻斬りで名を馳せた人斬り以蔵。岡田以蔵だ。岡田以蔵が構えている刀は肥前忠広、辻斬りや暗殺の被害者の血を多く含んでいておどろおどろしい。




「あーぁ。はずれだよぉ、こんちくしょぉ。岡田以蔵とか絶対戦い方きたねぇじゃないか。」




 :w


 :岡田以蔵は真面目に外れ。剣術だけじゃなくて暗殺術も嗜んでいるのが厄介。


 :まあ、アーサー王とかそこら辺じゃないだけまだましか。




 僕は半泣きになりながら大鎌を垂らして半身で構える。




「想い描くはモネの睡蓮。流れに身を任せるように、また輪郭を捉えられないようにボクはその力を振るう。」




 先に動き出したのは――




 以蔵の方だった。




 刀を上段に構え振り下ろす、一見防ぎやすいように見えるが鋭さを追求した刀は受け止めた物ごと切り裂いてしまう。なので素直に距離をとって避ける。以蔵はそれを読んでいたかのように振り下ろしを途中で止め無理やり突きを放ってくる。




「っ!なんて柔軟性だよ。そこから突きなんて反則だろ」




 以蔵が人間には不可能な角度から刀を突き出してきたのを体を無理やり横にスウェーさせて突きをかわす。今度はこちらのターン。突きで伸ばしきった腕に下からの斬撃を浴びせる、が腕を上げられ薬指と小指の欠損にとどまる。




「くそ、今ので利き腕はいきたかったのに」




 :まじかよ、以蔵の亡霊も人間の動きじゃないけどひまわりちゃんも大概じゃないか


 先輩の後輩なる者:先輩ファイト!愛してます。


 :もうガチ恋湧いてるやんけ


 :ダウナー系の喋り方はいずこへ




 以蔵が懐から小柄を取り出し投擲したきたので大鎌の柄で受け、回収する。


 そこから僕と以蔵が数度打ち合い、僕が以蔵の懐に飛び込み――




「幻想解除――」




 小柄を―突き刺した。




 消えゆく亡霊に向け喋りかける。




「まさかボクが暗器なんて使うと思わなかっただろぉ。ボクの勝ちだ」




 :勝利宣言キターーー


 :かっこよ。ガチ惚れるわ


 先輩の後輩なる者:先輩先輩先輩先輩せんぱ―


 :後輩ちゃん壊れちゃってるよ




 僕は視聴者の反応に満足しながら完全に消滅した亡霊の方を振り返り――




 


 ただ一振りの刀が残されていた。







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