第88話 どうしてそんなに冷たいのさ!
翌朝、目が覚めたら、勉強したまま眠っていたらしい。机につっぷしたままだったらしく体痛い。ゆっくり体を伸ばしていく。
喉が渇いたので、お茶を飲みに行くと、机の上のお菓子にも手を伸ばした。
「煌蔣様、買ってきてくれたのよね。朝餉までにいただきましょう」
私は箱からお菓子を取り出し、パクリと口にする。ほんのりはちみつの甘さが、疲れた体にちょうどいい。このお菓子は、三々とよく分け合って食べたものだった。
「今でも、覚えていてくれたんだ」
感慨深げに齧ったお菓子を見ていたら、外が騒がしい。昨日のこともあるので、そっと扉を開け、外を見ると、そこには冬嵐が居座っている。あれほど、帰るようにと言ったのに、従わなかったようだ。
私は仕方がないので、出ていくことにした。ただ、自分の部屋から出ていかないと、おかしなことを言われそうだったので、窓から飛び出てこっそり自室へ戻る。急いで着替えをして、扉に手をかけた。
「うるっさい!! いつまで騒いでいるつもり?」
「桜妃!」
「警備はどうなっているの? 私は、今朝までの滞在は許したけど、そのあとは許していないわ。勉強の邪魔になるから、早く追い返してちょうだい!」
「どうしてそんなに冷たいのさ! 勉強なら僕が教えるから、一緒にすればいいだろう? 一緒に都へ戻ろう!」
「いやよ! 私はあなたと絶縁したの! 関わってこないでよ。もし、今すぐに屋敷を出ていかないなら、役所に突き出すわ! 科挙状元を望まれている才子がこんなことで、躓きたくはないでしょ?」
私の言葉に冬嵐は一瞬ひるんだが、拳を握り「かまわない!」と叫んだ。意志の強い言葉に、こちらが驚くほどだった。
「かまわない。桜妃がそうしたいなら、そうすればいい。僕は、桜妃を諦めるつもりはないんだから!」
「私は、冬嵐と結婚する意志はないし、今はとにかく、静かに勉強をしたいの!」
「桜妃は僕がいないと、科挙に絶対合格できない!」
「できるさ。桜妃なら」
騒ぎを聞きつけた煌蔣が、屋敷の中まで入ってきた。この領地にいる間は、屋敷への訪問も許していたので、この事態に驚いているのは冬嵐だけだ。
「第三皇子が何用ですか? 桜妃を知ったように言わないでください。僕の幼馴染だ」
「そう、あつくなるな。怜家のが幼馴染なら、私は許嫁だろう? 桜妃」
「……どっちも、朝から変に張り合わないでください! 二人ともこの屋敷から出ていって! 私は、静かに勉強をするって決めたんだから! 誰か! 冬嵐を馬車に詰め込んで都まで運んでちょうだい! 洲巻にしてもかまわないわ!」
私は煌蔣と睨み合っている冬嵐の元へ近寄っていき、首元に一発手刀を入れる。へなへなと崩れ落ちる冬嵐を慌てて抱き上げてくれる煌蔣。そのあと、この屋敷の護衛兵が寄ってきて、冬嵐を抱きかかえ、馬車まで連れて行く。
私は、「今すぐ、都へ行きなさい」と言って護衛兵を出発させる。さすがに、何も食べるものを用意していなかったので、昨晩もらったお菓子を一つ、兵に渡し、馬車を見送った。




