第85話 あんたには関係ないだろう?
私を見るなり、ずんずんと近寄ってくる冬嵐に私は驚いた。歩き方でわかる。相当怒っているようだった。
「桜妃!」
「久しぶりね? 冬嵐」
怒りを逸らせないかと軽く挨拶してみたが、そんなことで、ごまかされるような冬嵐でないこともわかっていた。吊り上がった目は、いつもの余裕を窺わせることはなく、ただ、私を射抜くように見ていた。
「久しぶりだね? じゃないことくらい、わかるよね? 手紙ひとつで、どうして、領地へ来ているし、、都では、女性の科挙が試験導入されるってふれが出た。そんなときに、暢気に!」
私の手をつかもうとした瞬間、煌蔣がさっと間に入った。その身のこなしはさすがで、私も冬嵐も驚いて一歩ずつ下がった。
「怜家のだな。桜妃に乱暴なことはしないでくれ」
「なんだ、あんたには関係ないだろう?」
武術を身に付けている煌蔣は、背も高いが、体がしっかりしているので、学問しかできない冬嵐は見劣る。そのことを知っている冬嵐でも、私との間に入られたことや、私のことを名で呼んだことをよく思っていないらしく、さらに険悪な雰囲気になっていった。
「冬嵐、それくらいにしておきなさい。煌蔣様に、失礼です」
「煌蔣様? 煌蔣様って、第三皇子の? なぜ、ここにいるのですか? それに桜妃と呼ぶのは……」
「煌蔣様は領地までの間、私の警護についてくれたの。今は、ここを拠点に、他の領地の視察をなさっているわ」
「だからって! 桜妃」
煌蔣の後ろに隠れてしまっているので、冬嵐からは声しか聞こえないだろう。私は、煌蔣の隣に並び、「冬嵐」と呼び掛けた。すごい剣幕で怒っていた冬嵐も少し冷静さを取り戻したようで、私の呼びかけに、答えてくれた。
「ここは目立つから、屋敷の中で話しましょう。あなたには手紙を書いたけど、きちんと話さないといけないこともあるから」
「それなら、桜妃、私も……」
「いいえ、煌蔣様。これは、私が解決すべきことですから……今日はお引き取りください。ご一緒できて嬉しかったです。また、時間があるときに、領地をご案内しますね」
私は礼を取って冬嵐に向き直る。私の視線と冬嵐の視線が合った瞬間、煌蔣も冬嵐も何か言いたげであったが、無視をした。私は、二人を気にせず、屋敷へと一人歩き出す。ついてこない冬嵐に私は、「何をしているの?」と問うと、ついてくる。私がさっきまでいた場所に斉が来たらしく「主」となんだか、ワクワクした声が聞こえてくるのは、空耳だと思って聞き流す。
「桜妃!」
「……」
「桜妃!」
「……」
「芳桜妃!」
さすがに屋敷に入ったので、私は振り返り、私の名を怒りのまま呼ぶ冬嵐を見上げる。すると、一瞬ひるんだようだったが、私と向き合うので、「何か用かしら?」と怒りのまま口にしてしまった。




