第84話 豪快なおばあさんだったね
おばあさんの後をついて、また、墓石の前に行く。枯れた花は抜き取り、持ってきた花を入れ替えていた。
「そういえば、もうすぐ、命日だね。それで、戻ってきたのかい?」
「えぇ、そうなの。しばらくは、こっちで暮らすつもりよ」
母と妹の命日が近づいているから、領地へ行きたいと父に懇願したのは、偶然ではなかった。たまたま、いろいろと重なってしまった結果、少し長めに領地に留まることになっただけだ。
「そうかい。桜妃ちゃんが、また、領地を走り回ってくれると、ここも、また、活気づきそうだね。そういえば、あなたも領地に?」
「私も桜妃がいる間は、芳家の領地にいるつもりだ」
「そうかい、そうかい。桜妃ちゃんを泣かせるようなことがあったら、このばばが許さないからね!」
花を飾り終え、手を合わせる。私がいたことを嬉しそうに話しているおばあさんを微笑ましく見ていた。
「さて、帰ろうかな。桜妃ちゃんたちも帰るんだろう?」
「一緒に帰ります」
私は、おばあさんが持っていた花かごを持つと、煌蔣がそれを持ってくれる。三人が丘を下る間、私の昔話が繰り広げられ、恥ずかしい思いをすることになった。そのとき、「一緒に遊んでいた女の子は元気かい?」と聞いてくるので、私は煌蔣の方を見る。領地で遊んだ子どもで思い当たる人物は一人しかいなかったからだ。
「おばあさんの隣にいる人が、その子だよ」
「ひぇー!!! 女の子じゃなかったのかい? こんなにいい男になって。私があと、50年若ければ……いやいや、桜妃ちゃんの旦那さんだからね」
煌蔣の背中をバンバンと叩きながら、「しっかりおし」とおばあさんは笑っていた。
「豪快なおばあさんだったね」
丘の麓で、おばあさんと別れて、屋敷に戻る。私たちは隣に並びながら、さっきのおばあさんの話をした。私の昔話もあって恥ずかしかったが、『三々』を領地でも知っている人がいたことに驚いた。
「三々って、美人で可愛い子だったから、覚えてくれていたんだね?」
「桜妃は忘れてたけどね?」
私をチラリと見てから、前を向く煌蔣のお尻をペチリと叩く。悪かったと思っているので、そう何度も言われたくなかった。
「ごめんね?」
「いいよ。子どものころの話だし、思い出してくれたなら」
手を繋いだからか、私の歩幅に合わせて歩く煌蔣は少し窮屈そうだ。屋敷までの間、領地の案内をして帰った。聞いたことがあるような話もしっかり聞いてくれる。
屋敷まであと少しになったとき、名残惜しいなと考えていた。
「屋敷の前に誰かいるね?」
煌蔣に言われ、私は前を見た。屋敷の門前で、待っていたのは、とても怒っている冬嵐だった。




