第81話 ただ、一心に。
私の隣に座り、母と妹の墓石を見つめている煌蔣。この瞬間に何を思っているのだろう? と横顔を見上げる。
「そんなに熱視線を浴びたら、穴が開くだろう?」
クスクス笑いながら、こちらを見てくるので、私は慌てて視線をそらした。今度は私に視線が向かってくるので、さらに横を向く。
「見てないですからね?」
「そういうことにしておこう。それで?」
「……煌蔣様こそ、今、何を考えていたのですか?」
「桜妃も幼くして母を失ったんだなと思って」
「それは、煌蔣様もですよ」
「私は元服していたから、幼くはない」
口をとがらせている煌蔣。普段は誰にも見せないであろう年相応の煌蔣に微笑みながら、私から離れたあとから今までの話を聞くことにした。
「桜妃と離れてからは、ひたすらに前を向いていた気がする。勉強をして、体を鍛え、どんなことにも対応できるように……、ただ、一心に。桜妃と次に会ったときに、笑われぬように」
「私のことを考えながらですか? あれからすぐに皇宮へ戻られたのですよね?」
頷く煌蔣は、そのあと、私と領地で出会った話や婚姻したいことを両親に話したそうだ。母は、微妙な表情をしており、父には反対されたと、小さく呟いた。
「今にして思えば、芳家はこの国で影響力のある貴族だ」
「そうでもないですよ?」
「そうでもあるさ。私の後ろ盾にしてはいけないくらいには、影響がある」
「確かに。私は、皇宮との関わりを断たれていましたから、そのあたりはあまりくわしくはありません」
頷く煌蔣は、私の父の考えをゆっくり説明してくれた。父の心の内は、皇帝から聞いたそうで、煌蔣は知っていたそうだ。だから、私が簪をしていなかったことをとても残念に思っていたらしい。私の父が、皇族ではなく怜家との婚姻を望んでいるのは、後宮に入内した場合のことを心配していると教えてくれる。
私もひと月と短い間を後宮で過ごし、煌びやかであるのにとても底冷えのするような場所だと感じることはあった。明明が守ってくれていたから、私は快適に過ごせていたが、果たして、次、皇太子の妃として後宮に入ることがあれば、もちろん、皇宮の権力争いに巻き込まれることになる。
怜家も力ある貴族のひとつなので、側室を迎えることも考えられるが、冬嵐はしないだろう。
「芳家として、いかに桜妃を安全に幸せに暮らせるかを考えている。私の側ほど、不安定な場所はないから、芳太傅に反対もされたのだろう。私の父も、それを望まない」
先祖から続く芳家は、多くの武官を輩出してきた貴族であった。私の代で男の子が生まれなかったから、親戚から芳家の子として何人かが皇宮で働いている。その誰もが、慕われており、よい役職につける。だからこそ、芳家を第三皇子である煌蔣の後ろ盾にすることを皇帝は嫌っているのかもしれない。




