第80話 風がふわりと私を包むように凪い
私は膝を抱えて座り直す。母の墓石の前でしばらく黙ったままじっとしていた。小さな子供になった気持ちだ。
「……お母様、久しぶりです」
やっと口を開いたとき、風がふわりと私を包むように凪いだ。私は小さな子どもに戻ったようにぺたりと座り直し、いつも母にしていたように話しかける。幼いころは、領地で生活をしていたので、いつも遊び回っていた話を母にしていた。母は叱ることなく、いつも私の小さないたずらを微笑んで聞いてくれた。
「お母様、聞いてください。私、お母様が亡くなってから、ずっと部屋に閉じこもっていたでしょ? ある日、外からお母様の声が聞こえた気がして外に出たの。連珠には内緒でね。あの日は、連珠にとても叱られたわね」
一つ思い出せば、次から次へと思い出していくので、連珠に叱られたことを思い出した。私が部屋に閉じこもってばかりも心配していたらしいが、急にいなくなったことに誘拐かと思って、連珠は屋敷の周りを探し回ったそうだ。その様子を思い浮かべクスッと笑う。
……今とあまり変わらないわね。
「そのときに、出会った『三々』って覚えているかしら? お母様にも話したことがあったと思うの。そう、三々よ。その三々って、実はこの国の第三皇子龍煌蔣様だったって、最近分かったんだ。お母様は知っていたのかしら? お母様が引き合わせた縁だって思っているのだけど」
返事のない墓石に私は話し続ける。時折、優しい風が吹くのが、まるで母が返事をしてくれているようだった。
「私、煌蔣様と結婚を考えているのだけど、お母様はどう思う? お父様には、反対はしないけどって濁されてしまったわ。確かに、煌蔣様の周りは、命を狙われるとか、後ろ暗い企てや問題も多いって話を噂話で聞くけど、それは、才覚があって、後ろ盾がないからかしら? もし、芳家が後ろ盾になったら……、お父様は……この領地は苦労することになるかしら? 私、結婚したい意思はあるけど、できることなら、この領地は巻き込みたくないの。私が立身出世できれば、私個人で、煌蔣様と並び立つことができるかしら?」
私は父に言えなかったことを母に話すが、もちろん、その答えは返ってこない。ただ、胸の奥にしまっていた不安も吐き出してしまったことで、私自身、気持ちが軽くなった気がした。
「……桜妃」
私の名を呼ぶ声に反応して後ろを向くと、そこには煌蔣が立っていた。ハッとして、立ち上がろうとする私を制止させ、その隣にゆっくり歩いてくる。
「桜妃の母と妹の墓か?」
「そうです。母と妹です」
すると、煌蔣は礼をとるので、慌てて止める。
「煌蔣様、それは……」
「芳家の奥方なのだったら、当然だろう?」
「お気持ちはうれしいですが、今日は控えていただけると嬉しいです。そういう機会が来れば、いずれ……」
私は隣に座れるよう少しずれると、煌蔣も地べたに座る。とても、この国の皇子であるとは思えないが、普通のことのようにしてしまう煌蔣をとても近く感じた。




