第75話 斉殿と一緒に行動をすることは難しいです!
領地へ向かうまでにも、ひと悶着が尽きない。どうやら、本格的に、斉と連珠が犬猿の仲になっているようで、ことあるごとに揉めていた。私たちより大人な二人をどうにか穏便にと、煌蔣と二人で仲を取り持つようにしたのだが、何をやってもうまくいかない。
斉は、元々暗殺者ということもあり、礼儀作法がきちんとしているわけではない。腕を買われて、煌蔣の副将にまでなっているが、対外的に出す副将とは違うのだろう。私も経験しているけど、斉は人をからかったり、笑わせたりすることが好きなようで、いつも笑っている。
一方、連珠は幼い頃から芳家に仕えているので、礼儀作法もきちんとしており、まじめで仕事熱心だ。元々の性格もしっかり者であるため、ふわふわしていて、からかってくる斉のことが、どうやら気に入らないらしい。
「お嬢様! もう、斉殿と一緒に行動をすることは難しいです!」
煌蔣たちと合流してから3日目の朝、とうとう、連珠が根を上げた。芳家の領地まで、あと5日ほどかかるのだが、屋敷まで持たなかったようだ。私は、連珠の訴えを毎晩寝る前にとくと聞かされていたが、もう、無理だと泣き始めた。私は、連珠を抱きしめ、背中をさする。その様子を煌蔣も見ており、申し訳なさそうにしていた。謝ろうとする煌蔣に私は首を横に振った。
「連珠、聞きなさい」
私が呼びかけると、連珠は大粒の涙を流しながら私を見上げた。泣いている連珠なんて初めて見たから、私も戸惑ってしまったが、主人として、ここは譲ってはいけない。今後、煌蔣と行動を共にするのなら、斉との付き合いはずっと続くものになる。
「連珠の言い分は、毎晩聞いているから知っているわ。でも、あなたは、芳家の、私の侍女です。斉殿の意地悪がなんですか? そんなもの一蹴してやりなさい。普段の連珠なら、それくらいなんともないはずよ? よく考えてみて」
「でも、お嬢様」
私は首を横に振った。芳家の侍女であるならば、こんなことで根を上げられては困ると示すと、連珠の涙はぴたりと止まる。
「愚痴なら、毎晩でも聞いてあげるから、泣くのはよしなさい。それと……」
少し離れた場所に、斉がこちらを気にして聞き耳を立てていた。私たちのやり取りが気になるらしい。煌蔣が連れてきていた兵に指示を出している風ではあったが、身が入っていない。
私は、連珠に近寄りこっそりと耳打ちをした。それは、本当かどうかはわからないけど、私から見たらそうだとしか思えないからだ。私へのからかい以上に、連珠へのからかいが多い理由は、2つしかない。そのうちの一つの可能性を連珠に伝えると、頬が真っ赤になって目を見開いたのであった。




