第70話 ご一緒させていただけると幸いです
煌蔣と会った3日後。私たちは、馬車に揺られている。領地へ向かうためにだ。
「お嬢様、本当に冬嵐様に出発の日を言わなかったのですね?」
「そうよ? 昨日来ていたけど、科挙の話をしただけだったわ」
「科挙の準備は整っているって感じでしたね」
「本当、羨ましいわね」
「今回向かうお寺、月下老人だけでなく、文昌帝君もまつられているようですから、お嬢様の科挙合格祈願も致しましょう」
嬉しそうにしている連珠。科挙を受けることができることになったことを教えて以来、私の恋だけでなく、科挙に対しても、とても熱心に情報収集をしてくれている。そんなに心配しなくても大丈夫だと言ったが、「初めての女性受験者ですから、万全を期しておかなくては!」と張り切っている。
「お嬢様は、科挙目前まで領地で過ごされるのですよね?」
「そうよ。勉強の道具は持ってきたし、足りなかったらお父様に送ってもらうことになっているわ」
「ご主人様は、都での滞在を言われなかったのですか?」
「うん、これから、都は騒がしくなるからね。科挙の女性受験なんて、初めてだから」
私たちは、急に馬車が止まったので、不思議そうにお互いを見た。寺院につくころと言えばつく頃なのだが、少し早い気もしていた。街道を走っている馬車であっても、この頃、盗賊が増えているとも聞いていたので、そのたぐいかもしれないと、私は、剣を手に取った。耳を澄ませば、馬の蹄の音がした。それも、一頭二頭どころの数ではない。いよいよ、盗賊かと思ったとき、護衛についてきてくれた兵が私に声をかけてくる。
「お嬢様、その、第三皇子龍煌蔣様の使いの者だと、斉殿がお目通りをと言われています。いかがなさいますか?」
私は馬車の窓からちらりと外を見ると、黒い甲冑を付けた斉の横顔が見えた。確認が取れたので、連珠に頷き、剣を渡す。何かあったときは、すぐに出してもらえるように持っていてもらうためだ。
「斉殿なら、知り合いです。すぐに出ますね」
「わかりました」と兵が答え、斉に話しかけに行ったのか駆けていく。私は、馬車の中から顔を出し、御者に台を出してもらった。私を見た斉も馬から降りて、こちらに歩いてきた。
「芳家のご令嬢」
「斉殿、どうかしましたか?」
「主が、芳家の領地まであなたを送りたいと申しています。受けていただけませんか?」
「殿下がですか?」
「はい。街道を行くとは言え、危ない旅路になります。芳家の領地は、私たちの目的地からも近いので、いかがですか?」
「それは、とてもありがたい申し出ですが、殿下のご負担にはなりませんか?」
私は、斉に尋ねると、一瞬、笑顔になった後、真面目な表情を作って、「主がそうしたいのですから、ご一緒させていただけると幸いです」と、押し切った。私は、頷くしかなく、お願いをすることになった。




