第67話 胸を焦がすような人ができたかと思うと
「次は……冬嵐ね」
「お手紙を書かれるのですか? 直接会って話をされればいいのでは?」
「……ついてきそうじゃない? 冬嵐には行先も書かないつもりよ」
「そこまで、考えなしではないと思いますけど……」
連珠も冬嵐のことはよく知っている。私の幼馴染である冬嵐は、いつでも、どこでも、ついてきたがる。今回も領地へ帰ると言えば、学府を休んでまでもついてきそうなので、それだけは阻止したい。今回の科挙で、冬嵐の邪魔はしたくないと思っているのと同時に、頼らずどこまでできるのか、私の力も試したいと考えていた。
「お嬢様のことになると、向こう見ずなところはありますけど、怜家を背負っているのですから、控えてくださるのではないですか?」
「そうだといいんだけどね。婚姻の話もあるから、少し避けたい気持ちもあるの」
私は、心のどこかで、ずっと避けていたように思う。友人として、幼馴染として、私は冬嵐と接してきた。いずれは、冬嵐との婚姻を父から薦められることも想定はしていたので、その心積もりもしてはいたが、どこか、私は恋愛に発展するようなことは避けてきた。冬嵐の気持ちも気づいていたけど、見ないふりをしてきたことに、罪悪感もある。
今回、父と話し合った結果、私は、冬嵐と結婚をする意思がないことを伝えたので、父からも怜家へ話がいくのだろう。
「……恋心って、厄介なものよね?」
「お嬢様がそんなことを言う日が来るだなんて! 今日は祝いの膳を用意しないといけなくなりそうです」
「どうしてそうなるのよ」
「お嬢様から、恋なんて言葉が出ることなんて、一生期待していなかったからです!」
私を見る連珠の目はキラキラと輝いている。未来がほとんど決まっていた状態で、誰かに恋をすることなんてないと思っていた。だから、冬嵐の気持ちがわからなかったのだが、今ならわかる気がする。手紙を書き終え、頭を上げたとき、シャランと簪の飾りが鳴った。
「この簪はどうされますか? 荷物にまとめますか?」
「これだけ、つけていくことはできるかしら?」
「もちろんですよ! とても気に入っていらっしゃるのですね」
「そうね。今日、初めてみたけど、素敵だと思うわ」
私は、簪を抜き取った。見事な金細工のそれを見ていると、急に頬が熱くなる。煌蔣を思い出し、なんだか恥ずかしい気持ちになった。その様子をみていた連珠は、ニヤニヤとしながら、私を見ていた。
「連珠!」
「はい、お嬢様。連珠は嬉しいです」
「……どうして?」
「お嬢様も胸を焦がすような人ができたかと思うと、嬉しいのです。親心……いえ、姉心として、これほど嬉しいことはありません!」
熱心に目を輝かせながら私に語ってくるが、私は連珠が思うような気持ちでいるわけではないように思う。私は、2つ目の手紙に封をして、冬嵐の名を手紙に書いた。




