第63話 4つ目の選択肢
「4つ目の選択肢。煌蔣殿下との婚姻だ。親として言うのなら、反対したい気持ちはある。そのうえで聞くが、桜妃は、この婚姻をどう思っている」
「……私は、この婚姻は必ずできると信じています。私だけなら、煌蔣殿下だけなら、叶わない夢物語で終わるかもしれません」
「殿下と結婚した先、何を考えている?」
「私は、今言えることは、私にできることが少なすぎるということです。ただ、婚姻という形でなかったとしても、殿下の役に立ちたいと考えています。私が何を成せるのか、それはまだわかりませんが、私にも殿下の行く先を一緒に歩みたいと考えています」
私は、目を瞑り、思い出を思い起こした。お互いに傷を持ち、ふさぎ込んでいた日々に出会ったこと、楽しかった日や約束のこと、私たちには、それほど多くの時間を共にしたことはなかった。
でも、私が確実に言えることは、『三々』がいたから、辛いことも乗り越えて、今の私があるのだ。ここまでくるのに、父をはじめ、連珠や冬嵐たちが支えてくれたことも大きいのも知っている。恩を返すなら、冬嵐にだって、返さないといけないだろう。
私の心が向かっている先は、他の誰でもなく、煌蔣であった。
少し頭を振って、考えをまとめている父を見つめる。次に私が言い出すであろうことは、想像がつくからだ。現状、第三皇子である煌蔣との婚姻は難しいことも父は知っていた。
煌蔣の母は、元服した煌蔣を見たあと、自害した。理由は語られていなかったが、国に想う人がおり、その想いに押しつぶされてしまったという。その事件のせいで、未来輝かしいはずの第三皇子煌蔣は、陛下の臣下たちによって僻地へ追いやられてしまった。煌蔣が優秀だったからこそではあるが、僻地での苦労は計り知れない。この国を狙う隣国との小競り合いが多く起こっていて、常に戦いに出ていると聞いている。
私は、そんな渦中へ飛び込むというのであるから、父は心配せずにはいられないだろう。
「……諦めなさいとは、とてもじゃないが言えない。ただ、他にも道があることを知っていてほしい。皇太子からも怜家からも婚姻の打診が来ている。官吏になる道も含め、今一度、よく考えなさい」
父は、私に4つの道を示して、優しく微笑んだ。その中で私が願うものを後押ししてくれると言っている。皇太子や冬嵐との婚姻をすれば、何不自由なことなく、暮らせるだろう。未来が約束された道だ。
ただ、父は知っている。私が、二人を選ぶことはない。選ぶのは、より険しい道を選ぶことを。
「……誰に似たのか……。その目は、自分を変えるつもりはないというものだね?」
コクンとうなずくと、やれやれというふうであった。




