第62話 4つの選択肢
「さて、もう一度確認をしておこう。桜妃」
「はい、お父様」
「選択肢は、多い方がいいと思っている。その中で、桜妃が選べばいいと思っているが、それ以外の選択をしても構わない」
父の言葉に頷く。私は、結婚適齢期であり、芳家の令嬢という売り手市場の真っ盛りである。誰が好んで、『芳家の令嬢』と結婚をしたいと思っているのかというのが、市場内での評価であるが……。
……私、山猿とか言われているのよね。貴族令息たちの中で。貴族の社交的に外へ出ることが少ないから。
「私が用意できるものは、4つ。1つ目は皇太子との婚姻。これは、ひと月の体験をしているから、どんな生活になるかはわかっているはずだ」
「はい、明明と今後の話をする機会もありましたので、後宮に残った場合の話も聞いています。煌蔣殿下にも、皇太子からの婚姻の申し出があったことも聞きましたから、想像はできます」
父は頷き、次の選択肢を説明していく。
「2つ目は怜冬嵐との婚姻。私は、この婚姻を強く願っている。将来も有望な官吏となるであろう冬嵐との婚姻は、桜妃にとって、幸せを十分に与えてくれることになる。家柄も安泰しているうえ、冬嵐は桜妃を強く想っているからな」
「……それは、そうなのかもしれませんが、私は、冬嵐を選ぶことはありません」
「一時の感情で言っているわけではないか?」
「はい、違います。私は、ある約束に甘んじてきました。その約束をしたのが、冬嵐だと思っていたからです。でも、違うとはっきりした今、私は別の選択肢を選びたいです」
「……そうか。わかった。怜家との婚姻の件は、私が進めたものだから、解消についても、こちらでなんとかしておく」
「お願いします」と父にいうと、複雑そうな表情でうなずいてくれた。本当なら、この選択肢だけを選んでほしかったはずだ。新たに増えた選択肢は、できることなら、選んでほしいとは望んでいない。
「3つ目は、官吏になること。これは、科挙の結果次第だが、桜妃の今の学力なら十分合格できる範囲であると、皇太子も私も考えてはいる。この選択肢を選ぶことに、後悔はないか?」
「もちろんです。私だけでなく、後世にまで続くなら、私が、その道を切り開いていきたいです。辛くても、負けません」
「……わかった。これは、桜妃の努力次第で決まる。選択肢の一つであって、左右されるものがあるから、まだ、未定だ」
「はい。必ず、皇太子の期待に応えてみせます!」
何か言いかけて、父は言葉を飲み込み、最後の選択肢を口にした。それは、今すぐの選択ではないことを示したうえで、二人で乗り越えて叶えるしかないと私に告げた。




