第61話 俯いてはいられない。
「そ、れは? いつ、いつ決まったのですか?」
「ついさっき、連絡がきた。皇太子からの書状とこれが桜妃の答えとともに発表されるものだ」
私は、父から手紙をもらい読んでいく。確かにその字は皇太子のものであり、その内容をしっかと確認していく。内容は、試験的に導入して、その結果が良ければ、貴族の中から、官吏になりたいものがいれば、科挙を受けることや学び舎へ通う許可が下りることが書いてあった。
……私だけではなく、後にも続く人がいれば、もっとこの国は違うものになっていくのかしら?
貴族を優先的にとはなっているけど、ここに、貴族に推薦されたものも受験が可能となっている。今後、そういう人材がいれば、広がっていく可能性はあるのね。
私は、手紙をじっと見つめた。いろんな想いが浮かんでは消えていく。
……これを受ければ、受かるというものではないわ。それに似合う勉強もしないといけない。私では、足りないことも、十分にわかっているし……。それなら、私は、できることをするだけよ。
でも、私が挑戦しないと、未来には繋がらない。私でできることで、まず、道が開けるなら、やらないという選択肢はないわ。
ただ、科挙を受けて通るだけじゃ、この案は立ち消えるかもしれない。より上位の成績で……それこそ、冬嵐を超えるくらいの成績がなければ、納得されないかもしれない。
不安な気持ちが胸に広がる。試験的な導入をすると書いてある以上、ある程度の基準は、皇太子にも陛下にもあるのだろう。その基準は、私ではわからないし、基準値に達しているのかなんて、科挙を受けたことも見たこともないからわからない。
「他の者達と同じく科挙を受けてとなるが……やれそうか?」
私は手紙から顔を上げ、父を見た。心配そうにしていた父は、少し口元を上げ、何度かうなずく。私の夢の道が開いたことを不安に思う反面、応援してくれるのだろう。
「はいっ! もちろんです。不十分なところは、これから補っていかなければなりませんが、試験を受ける心意気という準備は整っています」
「これで、夢に少し近づいたな?」
「……そうですね。私が、示せるもので十分なものでなければ、この案は消えていくかもしれません。責任は重大であり、不安もあります。でも、私以外の女の子でも、続く子が出てくることを願い、私は、皇太子殿下の思惑にどっぷりとはまっていこうと思います」
「……無理はせず、自分の歩む道を間違えず、桜妃らしく突き進みなさい。私は、家で応援することはできても、役職的にいえば、関わらない方がいい。このお触れが出れば、邪魔をしてくるものも出てくるかもしれないが、負けないように」
頬に伝うものを拭き、私は頷く。俯いてはいられない。私が夢を掴むために、煌蔣に並び立てる存在になるために、進むべき道を一歩一歩着実に歩む決心をした。




