第47話 この香をどこで手に入れたのですか?
……どうしたの? いつもの芳桜妃はどこへ行ったの?
小さく息を吐き笑顔を作って促された席に着くと、煌蔣は執務机の方へ戻っていく。使っている香を持ちに行ったようで、見せてくれた。それを手に取ると、匂いを嗅いでみる。ほんのり甘く優しい香りであり、私のものと同じであった。
……やっぱり、私の使っているものと同じだわ。これを知っているのは、私と連珠、そして、調合を教えた三々だけ。三々で、間違いないと思うのだけど、どう聞き出せばいいのだろう?
私は、目を伏せたまま、香りを嗅いでいた。時折、シャランとなる簪を見て微笑んでいる煌蔣に気づくはずもなく、グルグルと考える。
……考えていても、答えは出ないわ。殿下に聞くしかないわよね。
顔を上げ、「殿下」と呼ぼうとしたとき、斉と侍女が部屋に入ってきた。お茶と茶菓子を持ってきてくれたようだ。「失礼します」と手際よく、私の前にお菓子とお茶を用意してくれ、侍女は部屋を出て行った。斉は部屋に残るらしく、煌蔣の後ろに立って見下ろされていた。
「主、機嫌が直っていますね?」
「何のことだ?」
「さっきまで、機嫌が悪いですって、顔に書いてありましたから。芳家のご令嬢もさぞ、ご不快な思いをされたことでしょう。何故、機嫌がよくなったかは知りませんが、先に謝った方がいいですよ。態度、悪かったですから」
ずけずけという斉に、私の方が驚いてしまい、大丈夫なのかと心配になったが、煌蔣は、「あぁ」とだけ返事を返している。どうやら、この二人は、主従関係でありながらも、通常の主従より近しい存在なのだというのが、この会話からわかった。
「芳家の令嬢、悪かった」
「いえ、気にしていませんから」
「そうか。なら、よかった」
ホッとしたように微笑むので、私もつられる。今なら聞けそうな雰囲気ではないだろうか? と思い、聞きたかったことを言うことにした。
「……殿下は、この香をどこで手に入れたのですか?」
「この香は、私が手ずから作ったものだ」
「殿下が、この香を作ったのですか?」
「あぁ、そうだ。昔、辺境の地で、数年間を過ごしていたことがあり、あるとき、町で一人の子どもに出会った。自分の出自やその他、幼さゆえにたくさんの葛藤を持っていたときに、底抜けに明るく優しい子がとても印象的だった。数日に1度、その子は屋敷を抜け出してくる。そこで仲良くなった子がいた。その子から、別れのときに匂袋をもらい香りの調合を教えてもらったんだ」
卓の上に置かれた巾着は、ところどころ糸が出ていて、すでにボロボロだ。何年も持っていたに違いないそれに、私は目が釘付けになる。その巾着には、桜の模様と「妃」の文字が書かれていたからだ。




