第44話 主のご帰還をよくご存じでしたね?
門前から動こうとしない私と何事もなく立ち去って欲しい門番たちとは、笑顔で睨み合いをしていた。
私にだって、引けない事情があるのよ! 粘れるだけ粘ってみせるわ!
私はテコでも動かないと、門前で足を踏ん張って立っていた。門番たちも、通すわけにはいかないと、私の前に立ちはだかる。
静かな戦いが繰り広げられているだけなので、騒ぎらしい騒ぎにはなっていなかったが、誰かが、上役に報告をしにいったらしい。奥から、男性が眉を顰めて歩いてきた。門番たちは、私と睨み合いをしているので、気づかなかったようだ。
「何を騒いでいる?」
後ろから少し不機嫌そうな声をかけられて、門番たちは驚きで一瞬飛び上がった。
「斉殿」
「芳太傅のご令嬢、芳桜妃様が、殿下にお目通りをと申されまして、困り果てています」
門番から話を聞いた斉という武官が私を睨んだ。いつも煌蔣に付き添っている武官だ。私は、何を言われるのかと覚悟をして後ろに下がりたいくらいの緊張をしていたのだが、斉は私に礼を取ると、「ついてきてください」と私をあっさり通してくれた。
門前を守っていた門番たちは、お互いを見合って、いらぬ苦労をしたのではないか? と、少し情けない表情をお互いに見せていた。
「あの方たちのようなしっかりした門番の方々がいるこのお屋敷は、安心できる場所ですね!」
門番たちの脇を通るとき、門番たちにも聞こえるように斉へ話しかけると、笑わなさそうな斉がクスっと笑い、「芳家のご令嬢は、頭のきれる人のようだ」と呟いている。
……、おべっかを言ったことがばれているのね。私がきれるのでなく、それを指摘してしまうあなたの方が、よっぽどタヌキよね? 門番たちの表情が一瞬で強張っちゃったじゃない。
私は、振り返り門番たちに小さく手を振った。少しほっとしたような表情を見せてはいたが、本当に私を通したくなかったわけではなさそうだ。表情を見れば、口元をあげているのが見える。
私は前を歩く斉の背中を見ながら歩く。ところどころ、周りを見ながら歩くと、屋敷の中まで、黒光りするくらい磨かれ、手入れされている屋敷はとても綺麗だ。
「殿下は、普段、この屋敷に住まわれていないはずですが、とても、手入れの行き届いているのですね」
「もちろんですよ。ここは、主のお屋敷です。主が不在であっても、常に美しく整えられています」
何気なくした質問に、ぶっきらぼうに応えてくれる斉に気をよくした私だったが、次の言葉にどういう意味があったのかはわからなかった。
「芳家のご令嬢が、主のご帰還をよくご存じでしたね?」
私は、皇宮で会ったことを伝えると、斉は煌蔣と一緒に出掛けていなかったらしく、少し驚いていた。ご令嬢が、皇宮を歩くことなど、普通ならありえないことであったからだろう。今日、皇宮で会ったからと言って、約束もなく突撃してきた私のことを無鉄砲な子だと思われたようだった。




