第43話 よしっ、完璧なお嬢様だわ
「帰っていたんだね? 桜妃。って、どこに行くんだ! 私を迎えに来てくれたんじゃないのかい!」
私は屋敷を飛び出し、目的の場所まで駆けていたところ、道端で悠々と歩いている冬嵐が見えてきた。満面の笑みを浮かべ、手に持っていた扇子を閉じた冬嵐は、私が自分の胸に飛び込んでくるかのように手を広げてまっていた。が、私は、冬嵐なんてお構いなしだ。その横をスッと通り抜けていく。
「ごめんなさい! 今、ちょっと……忙しいの! 出かけるから、また、あとで!」
「あっ、おい! 桜妃! どこへ行くんだ!」
私は駆けながら、振り向きざまに、冬嵐に手を振り、前を向いてさらにスピードを出して走った。
「お嬢様っ!」
「って、うわぁ……!」
突然、後ろから、悲鳴とドスッという音が聞こえてきたので、少し振り返る。すでに距離があいているので、小さくなっていたが、私を追いかけてきていた連珠が、冬嵐とぶつかって、盛大に二人して倒れてしまったようだった。
「大丈夫かな?」
一瞬、二人の元へ戻ろうか悩んだが、あの二人なら、私よりしっかりしているから大丈夫だろうと、そのまま、私は一直線に目的の場所まで走っていく。
屋敷からそう遠くない場所に目的地があり、少し走ったら、角ひとつ分の手前で息を整えた。
さすがに、令嬢が息を切らして貴族の……、皇族の屋敷を訪ねるなんて、おかしいものね。
ふぅっと大きく息を吐き出し、また、吸ってを数回繰り返したら呼吸は元のように戻った。
走って乱れた襦裙をきちんと整える。汗もかいてないか、靴は汚れていないか、あちらこちらを確かめていった。
よしっ、完璧なお嬢様だわ。
屋敷の前まで行って、門前から屋敷を見渡せば、屋敷の主を彷彿とさせる清廉潔白で何者ものにもそまらないという確固たる意思を感じ、雰囲気にのまれそうになるが、腹に力を入れて、笑顔で門番へ話しかけた。
「第三殿下は、皇宮からお戻りですか?」
「なんだ貴様は!」
「……芳桜妃と申します。あの、第三殿下にお目通りをお願いしたいのですが……」
「殿下は誰にも会われぬ。帰るがいい」
「お、おい……芳太傅のご令嬢だぞ? そんな言い方」
「そうは言っても……だな」
門番たちが困惑していることはわかる。私自身に何もなくとも、父は太傅だ。失礼のないようにと思う心と第三皇子の居の門番であると自負と責任がある彼ら。約束もないのに突然現れた私も悪いのだが、今の私には、煌蔣と約束を取り付けられる接点がない。こうする他に何も手立てがなかった。




