第41話 懐かしい光景
「……蔣?」
私が首を傾げていると、連珠が同じく煌く簪を見ていた。同じように首を傾げながら、連珠が唸っている。
「それの刻印って、送り主の名ですよね?」
「そうよね? それに子どもがとても買えるものではないわ」
金細工の簪はとても高価なものだ。当時、私も三々も子どもで、とてもじゃないが、買えるような代物ではない。見れば見るほど、精緻な簪は、値段が付けられないほどのもので、貴族の嫁入り道具のひとつだと言われても納得のいくものである。
「でも、確かに私が三々様から受け取ったので……三々様からの贈り物ですよ」
「わかっている、連珠が間違うはずがないわ。もしかしたら、三々のものではなくて、その家族のものだったり……?」
「そんなことはないと思います。お嬢様を迎えに来ると言ってましたから」
連珠の言葉に私はますますわからなくなったが、煌蔣から香っていた匂いの方が気になっているので、連珠に確認することにした。
「今は、それよりも、匂袋ってどれだけ大切にしていても、何年も持っていては匂いもなくなってしまうわよね?」
「そうですね。香りの持続は、香料によりますが、約一月かと。保存状態によっては、もう少し継続する場合もありますが、継足しをしなければ……」
連珠に話しているうちに、当時のことがぼんやりと記憶に甦ってきた。小さな女の子二人が、横に並んでいる様子だ。手元には小さな手と隣には黒髪の子どもがいる。さらに辿っていくと、不器用な私が縫い物をしていて、針を指に刺して、親指の腹からぷっくりの血が盛り上がっている様子が思い浮かぶ。
断片的に思い出していて、全てがうまく繋がらない。
薄らいだ記憶が、ゆっくりではあるが次々に甦る。領地での辛かった思い出もたくさんあったので、私自身、領地での記憶を意識下から排除していたのだろう。
徐々に思い出す中で、三々に匂い袋の香料の作り方を教えたことを思い出した。
「お母様が特別に作ってくれた香なの。三々にも教えてあげるね!」
まだ、私が勉強嫌いで、文字を書くこともそれほど上手ではなかったころのことだった。記憶力はよかったので、母に教えてもらった香料の作り方を三々にも教えることができた。ひとつひとつの材料を確認しながら、三々の目の前に、匂い袋の香料となる材料を置いていく小さな手を私は瞼の裏側で見ていた。懐かしい光景、黒髪の子どもが私に笑いかけてきた。




