第38話 私も一ついただく約束も取り付けてあります
屋敷へ戻ると、連珠が待っていてくれた。私を見るなり抱き着き、危うく後ろに倒れるところを父が支えてくれる。
「お嬢様! おかえりなさいませ」
「連珠ったら! 苦しいから!」
ぎゅうぎゅうと力がこもっていく腕から解放されたいのだが、それを許してくれそうにない連珠を父が引き剥がしてくれた。
「連珠、嬉しいのはわかるが桜妃が窒息してしまうぞ?」
「そ……それは困ります!」
慌てて離れてくれるので、私は大きく息を吐いた。助かったと思うとホッとする。そんな私を見て、父も連珠も笑っている。とても嬉しそうなのが、私にとって何よりだった。
「そのまま後宮に住みなさいなんて言われたらどうしようかと思ったわ!」
「お嬢様」
「連珠の迎えもお父様も、ありがとう。私は、やっぱりここが一番落ち着くわね!」「家族がいる場所だ。存分に休めばいい。しっかり働いてきた我が家の稼ぎ頭なのだから」
クスクスと三人で笑いながら、屋敷の中へ入っていく。東屋にお茶を用意してあると連珠が気を利かせてくれたので、父と一緒に向かうことにした。ひと月とはいえ、屋敷を離れたのだけど、何も変わらないことが、私をほっとさせてくれる。
連珠と父が前を話しながら歩いているのを少し後ろから見ながら歩く。いつもの光景、いつもの屋敷。それが私にとってどれほど心地よいものかということを改めて感じた。いつかは、離れることもあるかもしれないが、今しばらくは、このままでいたい。
「お嬢様の好きなお茶菓子を用意しましたからね! 楽しみにしておいてくださいね!」
私は笑顔の連珠に頷く。いつも明るいが、今日は特別な気がする。私が戻ったことが、本当に嬉しいようだ。
東屋に置かれているお菓子を見れば、今日は少し奮発してくれたのだろう。高いお店のものだ。
「これ、いいの?」
「もちろんです! 旦那様から言われて、私が朝から並んで買いに行きました!」
胸を張っている連珠。誇らしいのだろう。ここのお店のものは、高級な上に、1日に作られる数も限られ、朝から並んでも買えない場合もある。連珠に「ありがとう」というと、「いいのですよ! 私も一ついただく約束も取り付けてあります」とちゃっかりしたことも言っているので、私は思わず大笑いする。後宮では、そんな笑い方はできないので、自由な場所に戻ってきたのだと実感した。
席に座り、父や連珠と話し始める。
「話を変えるが、今年の科挙は怜冬嵐が主席だろうともっぱらの噂だ。桜妃は、幼馴染として、鼻が高いのではないか?」
「それはそうですよ! でも、まだ、科挙までに時間がありますから、冬嵐はしっかり勉強していると思いますよ!」
「そうか。今日は桜妃が後宮から帰ってくると伝えてあるから屋敷に来るかもしれない。遊びに行くなら、遅くならないようにな?」
「……私なんかと遊んでいる暇あるのですかね?」
私はお菓子を口に運びながら、幼馴染のことを考えた。今は科挙のために勉強をするために、この国の最高学府へ行っているのだ。私なんかに構っていてもいい時間はないはずだが、フラッと本当に現れそうな気がして苦笑いをした。




