第27話 お金をもらって
「芳皇太子妃様」と突然、明明に呼びかけられた。朝食が終わり、もう少ししたら、皇太子が私を迎えにくる時間である。
「どうかしたの?」
「いえ、最近、昼間は侍女も連れず、殿下とお出かけの様子。何をなさっているのか、その……」
「気になる?」
「はい」と素直に頷く明明が、心配して眉尻を下げている。昼間は例の場所で皇太子と勉強という名の論議をし、夕方からは鳳凰宮での勉強をしている。名目上、勉強をしているので、監査役の明明も何も言えず、宰相への報告も停滞しているようだった。
「心配はいらないわ! 殿下は、昼間もちゃんと勉強をしているから。私が保証する!」
「でも!」
「明明の言いたいこともわかるけど、信じてちょうだい。私はお給金の分だけは、きっちり働くわよ!」
明明に笑いかけていたとき、鳳凰宮の扉が開いた。こちらもふらっと1人で入ってきたので、私を迎えにきてくれたのはわかるが、どうやら、明明との会話を聞かれていたらしい。
「給金とは何のことだ? 宰相の差し金であることはわかっていたが、桜妃はお金をもらって妃の位にいるのか!」
抑えているが、怒りを感じ、私は諦めたように笑いかけた。ここを去る前には、本当のことを言うべきだと、私は考えていた。残りもあと3日となったときだった。
「ここで話しましょうか?」
「あぁ、頼む。明明、お茶の用意を」
私たちは、席に座り、朝食の片付けと共に新しい茶器が並ぶ。明明がお茶を淹れてくれ、席を外そうとしたので、明明だけ残るようにと私が傍についてくれるよう頼んだ。
「それで、どういうことだ? 明明も知っているのか?」
「知っています。ここの筆頭侍女ですから、当たり前ですし、私の監査役でもあります」
「お金をもらって、妃になったと?」
「えぇ、宰相様から、1ヶ月間を皇太子妃として、殿下の側でお仕えするようにと言われています」
私は、宰相から伝えられた話をひと通り終わると、一口お茶を飲み、胸につっかえていた荷物を下ろす。
「何故、太傅の娘である桜妃が?」
「お給金をもらうのは、我が家が貧乏だからです。太傅とはいえ、使うべきところへお金を流していれば、なくなるでしょう。その補填に私は殿下の教育係となりました。実際は、殿下に教えてもらうことばかりで、自分が勉強をしていた気になっていたことがわかって恥ずかしく思います」
小さなため息をひとつついてしまった。私は、今まで、井の中の蛙であったことを皇太子に出会って知った。この1か月、私が学ぶことの方が多く、偏った知識ではなく、物事を俯瞰的に見ることができるようになった。
私では皇太子の役には立たず、私にできることで頑張ろうと思った。今もその思いは変わらず、だからこそこの場にいるのだ。
でも、皇太子を知れば知るほど、私は必要なかったことを痛感させられた。考えないようにとしてきたが、今日で限界が来てしまったようだ。




