第22話 私にだって叶えたい夢があります
「なんのために勉強を? この国では、女子が官吏にはなれない。勉強などしても無駄であろう? それよりもよい嫁ぎ先を考えておいた方がいいのではないか?」
私は彼の「よい嫁ぎ先」というのを聞いて、睨んでしまった。さっき、嬉しそうにしていたのは、嘘だったのかと内心がっかりした。
「……よい嫁ぎ先ですか?」
「あぁ、そうだ。女子は、そのために、自身を磨き、その家族も娘に金をかけるのは、そういうことだろう?」
……彼のいうことは正しい。どこの貴族をとっても、皇帝の隣に立てる娘を育て上げ、権力を握りたいと願うものが多いのは確かである。皇族の一員となれるであろう娘は、ことさら大事に育てあげられる。
こことは無縁であった私とは違い、同じ年ごろの貴族の娘たちは、それぞれの家で、父の出世の道具として扱われるものも少なくない。
私は、にっこり笑いかけると、つられて、彼も優しく微笑みかけてきた。その姿を見れば、普通の令嬢なら恋に落ちるだろう。彼の妻になりたいと願うものがたくさんいるのは、この人の外面で騙されている令嬢が多いからだ。
この皇宮で生まれ落ち、後宮で育った彼が、裏の顔がないはずがない。純真無垢な笑顔を向けるのは、ある種の処世術のようなものだろう。
ページを1枚めくり、私は指でその文章をなぞった。その指先を見つめる彼は、不思議そうに視線をこちらへと移動させてくる。
「……無駄かどうかはわかりませんが、私にだって叶えたい夢があります」
「夢?」
おかしなことをいう私に興味を持ったのか、茶色い瞳を真ん丸にしている。彼の目を私はじっと見つめたあと、ふいに視線を逸らした。ツンとした表情を作り、取り替えたカップへ自分のためにお茶を淹れる。
その様子を見逃さないとばかりに見入っている彼が、面食らったように驚いていた。
「あなたがさっき飲んでしまったから、淹れ直さないといけないわ」
「あぁ、さっき飲みかけていたからな。まぁ、お茶の一杯くらい、いいじゃないか」
彼がニッコリ笑うと全てを許してしまいそうになるが、騙されてはいけない。恨みがましく一睨みし、入れ直したお茶を飲んだ。
「さっきの一杯は、私の侍女が、私のために心を込めて入れてくれたものです。お茶の一杯くらいで片づけないでください」
「それは悪かった。もう一度、その侍女を呼んで入れてもらうとしよう」
「いいえ、こんなことくらい、手を煩わせるわけにはいきません」
「侍女なのだから、当然の仕事であろう?」
「そうですね。でも、さっきの一杯と今度入れてもらう一杯は、きっと味が違うでしょう」
私の意図することがわからない彼に私は首を横にふり、もう一口、お茶を飲んだ。明明が疲れている私への心遣いに選んでくれたお茶は、とても美味しかった。




