第20話 残り二十七日。我慢よ、我慢。
……自由に出歩くことは出来ないのね。当たり前だけど。
私には常に明明が付き従い、明明がいない場合は、他の侍女が私のもとにいた。屋敷にいたころは、自由に街へと繰り出していたので、とても窮屈に感じてしまう。
雇われ妃の私に与えられた部屋は鳳凰宮。明明に鳳凰宮のことを昨夜聞いて、少し怖気づいた。それを意味することは、未来の皇后だ。そんな部屋に仮初の私が陣取って遊び歩いている皇太子の尻を……いや、根性を叩き直すのが今回の依頼だ。
皇后と貴妃への挨拶も無事に終わらせた私ではあるが、荷が重すぎると飾りのたくさん付いた頭を支えた。私は挨拶のときに、皇后から気に入られたらしく、明明の妃教育も始まり、三日目にして私はさらにウンザリする。
「少しお茶をいただきたいのだけど……」
「では、ご用意いたします」
お茶の準備をするために部屋から出ていこうとする明明を呼び止め、少し外の空気を吸いたいと懇願する。天気もいいし、何より今は花の季節でもある。
「ここから少し歩いた場所に東屋があるそうね?」
「えぇ、ありますけど、いつ、お知りになりましたか?」
「先日、侍女に聞いたの。とても過ごしやすい場所のように聞いているのだけど」
「そうでしたか。では、そちらにお茶を用意しましょうか?」
「そうしてくれるかしら?」
「かしこまりました」と明明がお茶の準備の間、家から持ってきた大学を開く。後宮のしきたりを覚えるよりずっと楽しい。何度も読んだため、すでにボロボロの本を大事に読んでいた。
「準備が整いました」と明明に促され、私は本を持ったまま東屋へと向かう。三日しか部屋に籠っていなかったが、外がこんなに清々しいのかと思い出す。
……後宮は、私にとって、とても窮屈なところね。私には向いていない場所だわ。残り二十七日。我慢よ、我慢。肝心の皇太子に会えるのは、いつのことかわからないけど、必ず、私のことをどこかから聞いて、様子を見にやってくるはずよ! 好奇心がとてもある人だと聞いたことがあるから、新しい存在である私のことが気になるはずよ。
私は変な根拠とともに、東屋まで歩いているところだ。先日、侍女に場所は教えてもらったが、実際、後宮の中を歩くのは初めてなので、明明の道案内がなければ、たどりつけそうにない。
歩いているだけで、後宮の中は華々しいと感じた。いたるところに花が咲いているからだ。野に咲く草花だけでなく、管理されているであろう草木を見ると、とても素晴らしい庭であることがわかる。どこかの貧乏太傅の屋敷とは雲泥の差でになんとも複雑な思いをしたのである。




