第15話 酷い顔色よ?
仮眠を取るよう明明に言ったあと、私は深く眠ったようだ。朝食の準備が整ったらしく、ほんわり優しい匂いで目が覚めた。
「おはようございます。芳皇太子妃様」
「おはよう。明明は、まだ、仮眠を?」
「いえ、皇后様より芳皇太子妃様へのお茶会の招待がありましたので、その対応をしております」
「そう。わかったわ。明明はちゃんと仮眠をとったのかしら?」
私は出された暖かいスープを口に運びながら呟くと、侍女が「しっかり休んでおられましたよ」と言ってくれる。それでも、数刻しか寝ていないのだから、疲れているだろう。私の輿入れの準備もしてくれていたと聞いたので、申し訳なく思った。
「今日はいかがなさいますか?」
饅頭を食べようとしているところで、侍女が話しかけて来たので、齧りつくのをやめた。そのときになって、ちぎって食べないといけないことに気がつき、慌てて食べ方を変える。
「そうね。明日、皇后様と貴妃様への挨拶があるから、明明さえ付き合ってくれるなら、昨日の続きをするつもりよ」
「かしこまりました。明明様はそのおつもりで準備をされていると思いますので、お着替えも、私がお手伝いさせていただきます」
「ありがとう。あと、明明には聞きにくいんだけど、ここって、息抜きができるような場所はあるかしら?」
「息抜きですか?」
聞かれた意味はわかるが、後宮に住む妃嬪たちの息抜きは、部屋で宝石を見たり、お茶を嗜んだり、書や絵を描くことだ。私のように、外へ出て羽を伸ばすようなことはないので、私の聞き方に疑問を感じたらしい。
「聞き方が悪かったわね。少し外の空気を吸うために出たいのだけど」
「あぁ、そういうことだったのですね?」
私は頷くと、侍女は悩み始めた。突然やってきた私に対して、彼女たちがどこまで『芳桜妃』を理解しているのかわからない。
ましてや入内2日目なので、好みも知らないだろう。
「この時期ですと、東屋はどうでしょうか? 殿下の後宮の中で1番過ごしやすいと思います。よく、殿下もお過ごしになっていますし」
「皇太子様が東屋に?」
「はい。天気の良い日などは、昼寝……を、いえ、寛がれていらっしゃいます」
私の片眉がピクリと動いたことにこの侍女は気がついてはいないようだが、私は「昼寝」に引っかかってしまった。
……将来、国の命運をかける人が、昼寝。何を考えているのかしら?
「あの、皇太子妃様」
「どうかして?」
「その……」
「殿下には、まだ、会っていないので、私も近々、東屋へ出かけてみますね。明明の許可がないと、いけませんから」
「そうですね」と侍女が空笑いをしていると、明明が部屋に入って来た。視線で、侍女に下がるよう示したあと、私に朝の挨拶をする。
「おはようございます。芳皇太子妃様。昨晩は遅くまで、大変失礼いたしました」
「いいのよ。おかげで、少しだけど、あなたに近づけた気がしているわ!」
「滅相もございません。私などに近づくだなんて、言わないでくださいませ」
頭を深々と下げるので、「頭を上げて」と言うと、少しだけ疲れた明明の表情が現れになった。
「大丈夫? 酷い顔色よ?」
「はい、大丈夫です」
「なら、昨日の続きをしましょう。あっ、そこのあなた! ごめんね、名前がわからないから」
「はい」と駆け寄ってくるのは、さっきまで私の相手をしていた侍女だ。椅子を持ってくるように伝えると、大慌てで準備をしている。すぐに持ってきたので、私は明明にそれに座るようにと促した。




