第14話 明るい明日というより、もう、外が明るいわ
「二日後に皇后様へのご挨拶があります。今回は、秘密裏の入内ですので、皇后様と貴妃様のお二人にお会いすることとなりました」
「そう……二日後ね?」
部屋には、私と明明の二人だけとなり後宮での礼儀作法を教えてもらっているところであった。一般的に知られている作法とは違うと判明した今、二日後に行われるご挨拶に向けて特訓が始まった。
「背筋が曲がっています! もっと腰から上に伸ばすようにどっしりとしてください。下半身は揺らさずに!」
「芳皇太子妃様! また、頭が下がっています!」
「もう少し小股で歩いてくださいませ!」
「静かに!」
「座るときは、足を閉じる! 胡坐はかかない! 背もたれにもたれない!」
明明は、連珠の比ではないくらい厳しい。お手本を見せてくれるのだが、どの所作を見ても、私より明らかに高位の存在のように見える。
「……明明は、どの所作も驚くほど綺麗だわ」
「芳皇太子妃様も、日々の積み重ねで、私のようなものより、素晴らしい作法が身に付きますよ」
「……そこまでは、望んでいないのだけど」
「いいえ、望みます! 今は、あなた様が、この国の皇太子妃であるのですから、もちろん、身分に似合ったふるまいをしていただかなければ、下の者に示しがつかないではありませんか?」
もっともなことを言われ、ぐうの音も出ない私は疲れて座り込んでいる。私より教えている明明の方が明らかに大変そうに見えるのに、生き生きとしていた。
……もう、夜中だというのに、眠くもならないのかしら? 私への指導だけでなく、他にも仕事をこなしながら、ここにいるのよね?
明明を見上げながら観察した。凛とした風に見えるのは、容姿のせいではなく、姿勢が関係しているようだ。私には、到底まねのできないような綺麗な所作に、私の方がドキリとしてしまう。
それからしばらく、不眠不休で明明の指導は続いた。
「頑張ってくださいませ。ここを乗り越えなければ、明るい明日はありません!」
「……明明、明るい明日というより、もう、外が明るいわ。どうやら、私たち、徹夜で作法の勉強をしていたようよ?」
明明は、周りを見渡し、外が明るくなっていることに驚いている。それだけ真剣に教えてくれていたのだろう。
申し訳なさそうに、私にひれ伏そうとする明明を必死に止めさせる。
……明明が悪いわけじゃなくて、一生懸命なだけだから。それに、私は明るい明日を待っていない日雇い妃ですもの。
「明明、頭を上げて頂戴。私は、あなたのおかげで、上達できたわ。今から少し仮眠をとって、また、続きをしましょう」
「……芳皇太子妃様」
「あなたは、私のために、しっかり教えてくれたのよ。謝ることなんて、何もないわ! お互い、朝食まで数刻、休憩を取りましょう。ね?」
「はい」と返事をしてくれたので、私は用意されている寝台へ、明明は自室へと戻っていき、別の侍女が控えてくれる。
慣れない寝床に最初はゴロゴロと転がっていたが、初日の緊張と、明明の指導の厳しさに疲れ、いつの間にか眠ってしまった。




