第13話 今日から、あなた様が私の前を歩く主です
静かに1人の侍女が前に出た。明らかにこの場にいる誰よりも上質な襦裙を纏った者であった。
「初めまして、芳皇太子妃様。侍女頭の稜明明と申します。明明とお呼びくださいませ。本日より、芳皇太子妃のお世話をさせていただきますので、何かありましたらお声がけください」
「わかりました、明明」
「お着替えをお持ちしますので、まずは湯浴みをしていただきます」
「外のものを持ち込まないようにと徹底されているのね」
私は、明明に返事をすると、明明は宮女たちに声をかけた。私は後宮の作法など知らないので、彼女たちが言うことに従うしかない。
「今日のお湯は花湯になっています。ゆっくり浸かっていただき、極上のひとときをお過ごしください」
そう言って頭を下げて出ていこうとする明明と入れ替わりに、薄着の宮女たちが中に入ってきた。腕まくりをしており、腕の見せどころだと言わんばかりであった。
お湯につけられてからは、あれよあれよという間に、磨きあげられていく。お手入れはしているとはいえ、ガサガサだった肌は玉のようにツヤツヤとなり、手触りも最高な上質なものになる。
「素晴らしいわね!」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
にっこり笑う宮女たちは、達成感に満たされているようだ。さぞ、私は、彼女たちにとってやりがいのある仕事を与えたことだろう。マッサージも終えて、新しい襦裙に着替えさせられた。着せてもらったものも、かなり上質なもので、肌触りもとても良い。
「この世のものとは思えないほどね」
「芳皇太子妃様だけに皇太子様よりご用意されたものですので」
「そうね」
私はその贅沢な襦裙をひと撫でして、眉尻を下げた。
……普通のご令嬢なら、これくらいのものは着ているのかしら?
私が着てきた襦裙もそれなりのものであったはずなのに、みすぼらしく感じてしまう。父が用意してくれたものに文句を言うつもりはないが、差は歴然としていた。
「明明様がいらっしゃいました」
「わかりました。みな、ありがとう。とても気持ちが良かったわ!」
私はお礼を言って宮女たちと別れ、迎えに来てくれた明明に付き従おうとした。
「芳皇太子妃様、私の後を歩かないでください。今日から、あなた様が私の前を歩く主です」
「そうは言われても、自分が帰る部屋すらわからないわ」
「後ろから言いますので、前を歩いてくださいませ。背筋を伸ばしてください」
後からの視線を感じながら、私は静々と歩く。いつものように大股でバタバタと歩くのは、みっともないからだ。
後宮へ来るまでに、連珠に言われて練習をしたが、お手本のような明明が後ろに控えていると、取ってつけたような私では格好がつかない。
「明明」
「芳皇太子妃様、どうかなされましたか?」
「部屋に戻ったら、宮廷作法を教えて頂戴」
「はい、もちろんでございます」
私の後ろを歩いていて、目に余るのだろう。今は何も言わないが、部屋に帰ってから、覚悟を決めないといけない……明明の厳しい視線にそんな気持ちになった。




