第12話 輿に揺られて
裏門から後宮に入る。ガタンと馬車が止まり、外から私の、名を呼ぶ声が聞こえた。立ち上がり、外へ出ると、綺麗な衣装を着た侍女と宦官が控えていた。
「芳桜妃様、ようこそいらっしゃいました」
1人の宦官が前に出て、馬車から降りる私を手伝ってくれた。「ありがとう」と声をかけると優しく微笑み返してくれた。仕事として当たり前のことをしているだけなので、特に反応はしないのだろう。
馬車から降りると、大きな建物が見える。裏門から見える建物は、主に妃嬪たちの居所であったり、侍従の生活区画となっている。門に近いここから見えるのは、侍従たちの生活区画だろう。
「芳桜妃様におかれましては、皇太子妃が住まう鳳凰宮となりますので、少し距離がありますが、輿もございますので……」
「歩いていくのは、ダメかしら?」
私の申し出に、宦官は驚きを隠せないでいた。芳家のご令嬢である私が歩きたいと言い出すとは思わなかったらしい。妃たちは私の噂話も耳にしているだろうが、ここで暮らす侍従たちまでには、知れ渡っていないのだろうか? と考えながら微笑んだ。
「無理にとは言わないわ。輿に乗せてもらいます」
ホッとした皆の表情を見れば、私の判断は正しかったことになる。
なるべく、わがままは言わないようにしないと。あんなに驚かれるとは、思わなかった。
反省をする意味で、こっそりため息をついて、輿へ乗り込む。全てを囲われており、周りが見えないようにされていた。
なるほど。外へ1人では出られないようにするためね。
道がわからなければ、逃げ出すことは難しいもの。
私はひと月しかここにいないけど、そうか、本当の皇太子妃が決まったとき、襲われないようにするためね。気が付かなかったわ。
輿に揺られ、四半刻が過ぎただろうか?
止まったので、降りるように再び声がかかる。裏門から真っ直ぐ来たはずであるが、すでに、私はどの位置に来たのかわからない。
促されて輿から降りたとき、先ほど出迎えに来てくれた侍従たちよりさらに綺麗な服装の侍女たちが頭を下げて私を出迎えてくれる。
「芳桜妃様、ようこそおいでくださいました。こちらになります」
1人の侍女が前に出て、私を歓迎すると挨拶をしてくれる。「出迎えをありがとう」と伝えると、その侍女は微笑み、部屋へ案内をしてくれる。
「こちらになります」と通された部屋は何もかもが大きい。部屋も文机や寝台、ありとあらゆるものが私の使っている物より一回り以上大きかった。




