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第1話 走り抜けた先に

 裏通りを一陣の風のように襦袢の裾をはためかせながら駆けていく少女。街の賑わいに気持ちも急いて、さらに早く早くと目的の場所まで足を動かす。

 こっそりと屋敷を抜け出した私は、いつの間にか衝動に駆られ、風のように走っていた。父がこの姿を見れば、「はしたない!」と叱っただろうが、外にいる今、その心配もない。父も今日は屋敷にはいないので、誰かが父に告げ口をしなければ叱られることはないだろうが、後ろから聞こえてくる声が、それを許さないだろう。


 ……ついてきちゃったのね。仕方がないわ。父に叱られるのは、もう慣れっこだもの。それよりも!


 私は、この賑やかな雰囲気にのまれて、ただ、目的の場所までわき目もふらず一目散に走っていく。


「待って! 桜妃!」

「お嬢様っ! 先に行かないでください! 旦那様に叱られますよ!」


 後ろから侍女と幼馴染が息を切らし追いかけてくるが、身軽な私との距離はどんどん2人とは離れていく。後ろを振り返るのも時間の無駄のように感じて見向きもせず、すでに出来上がっている人だかりの中へ小さな体を滑り込ませる。


「ごめんね、ごめんね! 通してちょうだい!!」


 ご令嬢らしからぬ張り上げた声。チビな私は最前列へ行くために、何列にもなっている大人たちの間を押し合いへし合いをしながら、人を掻き分けていく。小さな体なので、周りに何度押しつぶされそうになったかわからないが、気合いと根性と好奇心で最前列に躍り出た。私に後ろから押されたおじさんは迷惑そうに睨むが、ささっとおじさんの前に居座る。小さな私がおじさんの前に立ったところで、目の前にできているこの行列は十分見えるだろう。

 ペロッと舌を出して、「ごめんなさい」と言うと、おじさんはため息をひとつで許してくれた。


 走り抜けた先、私が屋敷を抜け出してまで見たかったもの。父にこの行列を見に行きたいとお願いをしても、ダメだと言われ諦めていた。

 まさか、父が当日、城の警備へ出かけるとは思ってもおらず、ちょうどいいところに幼馴染まで屋敷へ訪ねて来てくれたことで、私への監視の目も緩くなった。

 ここぞと言わんばかりに、屋敷の塀を飛び越え、街へ出てこれた。こんなに早くに侍女と幼馴染に抜け出したことが見つかることは想定外だったが、街へ出てしまえば、目的は果たせそうだと、とても嬉しい。

 屋敷に帰ったあと、父に叱られることだけは覚悟しなければならないが、今は頭の片隅に追いやってしまった。

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