ゴーレム相手に婚約破棄される練習をしまくったので、いつでも婚約破棄OKです!
「ベティ・マニージ! アナタとの婚約、破棄しマス!」
この婚約破棄に私はすかさずダメ出しする。
「ダメダメ! もっと強い口調で言ってくれなきゃ!」
今度は――
「ベティ・マニージ! キサマとの婚約、破棄してくれるワ!」
全然ダメ。即ダメ出しする。
「ウェルム様はそんな喋り方じゃないでしょうが! もっとちゃんとやってよ!」
次が三度目の正直。になるかな……?
「ベティ・マニージ! 君との婚約を破棄させてもらウ!」
私はうなずく。
「うん、いい感じよドルク!」
「そうですかネェ……」
私の目の前にいるのは“ゴーレム”のドルク。
ゴーレムというのは魔力で動く人形の総称で、私はゴーレム作りが得意なの。
ドルクはその中でも自信作で最高傑作。自分の意志で喋り、動くことができる。
いつも私についてもらって、護衛や話し相手をしてもらってる。
石でできたその体は大柄な男の人にも負けないぐらいの体格。だけど顔は優しげ。まあ、デザインしたの私なんだけどさ。
――で、今二人で何をしてるのかっていうと、婚約破棄される練習。
「いつまでこんなことしなくちゃいけないんですカ?」
愚痴をこぼすドルクに私は怒る。
「しょうがないでしょうが! あなたのせいでもあるんだからね!」
「すみませン……」
こんなことをしているのにはもちろん理由があった。
***
私はベティ・マニージ。子爵家の長女。
趣味はゴーレム作りな乙女。
子供の頃からゴーレムを作り続けて、今やすっかり『ゴーレムオタ女』として有名になってしまった。
三度の飯よりゴーレム大好きだから、当然結婚相手なんか見つかるはずもない。
お父様もお母様もすっかり諦めて、「お前は好きなように生きなさい」と言ってくれていた。
だけどそんな時、私のゴーレム技術に目をつけたある伯爵家から縁談が舞い込んだ。
ゴーレムは上手く使えば兵力や労働力になるから、こういう話があるのも当然といえば当然だ。
目の付け所がいいですねえ、と言ってあげたい。
とはいえ、めったにないチャンスともいえる。
お父様は――
「この縁談、絶対モノにするんだぞ!」
と鼻息を荒くしておっしゃった。
私としても、「ええ、絶対モノにしてみせる!」と意気込む。
私にだって貴族令嬢として家に貢献したいという思いはあるからね。
相手の名はウェルム・シュヴェート。
伯爵家の長男で、金髪碧眼の美男子だった。
しかも剣術の達人らしく、独自の剣士団を組織しているとか。確かに顔立ちはピリリと引き締まってる。細身ながら全身から覇気がみなぎっている。
顔合わせが無事無難に上手くいき、いよいよ教会で婚約式となる。
ウェルム様は青い礼服姿、私もベージュの髪をサイドテールにし、白のドレスで精一杯着飾る。
「私はベティ・マニージと婚約いたします」
「わたくしもウェルム・シュヴェートと婚約いたします」
両家の人間が、ドルクを含め、私たちを祝福してくれた。
誓いの儀式が済むと、私たち二人とお互いの両親を交え、歓談会となる。
今思えばここまではよかった。ここからがいけなかった。
ウェルム様がこんなことを聞いてきた。
「趣味はゴーレム作りと聞いているけど、ゴーレムのどういったところが気に入ったんだい?」
私の体内で、瞬間的に体温が上がった。
「はいっ! よくぞ聞いてくれました!」
「え」
ウェルム様が目を丸くする。
「ゴーレムというのは魔法と工学と芸術が組み合わさった、いわば人類の英知そのものなのです! ゴーレムという概念が生み出されたのはおよそ150年前、時の大賢者ベンソン様が……」
もう止まらない止まらない。
坂道にボールを転がした時よりももっと止まらない。
私は自分の持てる限りのゴーレム知識を振りかざし、いかにゴーレムが素晴らしいかを熱弁した。
途中、隣にいるお父様が私を肘でつついてきたけど、なんの効果もない。
こんな質問されたなら、思う存分喋るしかないじゃない。
20分、いや30分は話したかな。あるいはもっと……。
私が話し終えると、ウェルム様たちは苦笑いを浮かべていた。
やっちゃった……と思った。
食事が運ばれてくる。
その中にジャガイモが入ったスープがあった。
でこぼこでいい形をしていたのだけど、これがよくなかった。
私はジャガイモの塊を眺め、笑った。
「このポテト、いいですねえ~。いいゴーレムになりそう!」
「え」
ウェルム様が目をきょとんとさせる。
「私、“ポテトゴーレム”というのを構想したことがあるんですよ。ジャガイモでできているから、もし壊れてしまっても、その後食べることができる! どうです、これ? なかなかいいアイディアだと思いませんか?」
すかさず、近くにいたドルクがツッコんできた。
「ゴーレムとして働かせたジャガイモはだいぶ汚れてるでしょうし、それを食べるのはなんだか不衛生な感じがしますネ」
「そっかぁ~、残念!」
私とドルクは笑ったけど、他は誰一人として笑っていない。
ウェルム様も、呆気に取られたような表情をしている。
私は気まずくなって、その後は黙って食事をした。
食後、腹ごなしもかねて、ウェルム様が運動用の施設で“剣舞”を見せてくれることになった。
剣舞というのは、その名の通り剣を用いた舞いだ。
単に剣を手に持って踊るというわけではなく、達人になると華麗さと実用性を兼ねた舞いを披露できるという。
「では……参ります」
ウェルム様の剣舞が始まった。
――凄い!
一つ一つの動きに全く無駄がなく、しかも美しい。
その上、ありとあらゆる動きがちゃんと戦うためのものになっている。
私は剣術に関しては素人だけど、それがちゃんと分かる。
見ていると、自分が斬られる姿を想像してしまうような鋭さだった。
だけど、これがよくなかった。
「お守りしまス!」
ドルクが勝手に動き始めた。
ウェルム様の剣舞があまりに見事なので、私に命の危機が迫っていると判断してしまったのだ。
ドルクがウェルム様に勢いよく左拳を振るう。
並みの相手ならこれ一発でノックアウトできる。
だけど、ウェルム様は剣舞の流れから、それを剣で軽々と受け止めた。凄い!
そのままドルクとウェルム様の戦いが始まってしまった。
ドルクの剛腕をウェルム様は巧みにいなし、ウェルム様の鋭い剣をドルクは硬い体でガードする。
一進一退の攻防が続く。
私は止めるのも忘れて、見惚れてしまった。
それどころか――
「ドルク! 右、右! そう、そこ! あーっ、まずい! よけてーっ!」
主人としてドルクを応援してしまう始末。
だってドルクは我が子のような存在なんだもの。
戦いは10分ほど続き、ドルクの拳がウェルム様の顔面直前で止まり、ウェルム様の剣がドルクの肩を斬る寸前で止まった。
ドローとなった。
二人はお互いを称え合う。
「やりますネ……」
「君こそやるじゃないか……」
やっちゃったのは私だ。
ウェルム様のお父上は帰り際にこう言った。
「こんな婚約式は前代未聞だよ。婚約については、今後どうするか改めて判断させてもらおう」
そして昨日、私宛に手紙が来た。ウェルム様からだ。
『明後日の夜、会いたい。ゴーレムも連れてきて欲しい。場所は……』
私を呼び出す用件はなにか?
婚約破棄を言い渡すに決まってる。
だから、ドルクと練習しているの。少しでもショックを和らげるために。
「さあ、もう一度!」
「ベティ・マニージ! 君との婚約、破棄すル!」
これだけ練習すれば大丈夫。どんとこい、婚約破棄!
***
次の日の夜、呼び出された場所はとある丘だった。
雲がなく星が綺麗で、男女二人で会うには絶好のロケーションだ。
ウェルム様はすでに待っていた。剣は持っていない。
「やぁ。こんな時間に呼び出してすまないね」
ウェルム様がニコリと微笑む。
もう用件は分かっている。
だけど、ウェルム様を改めて見ると本当に素敵な方で、なんていうか「このまま別れたくない」という思いも強くなってしまった。
だから、ウェルム様が何かを言う前に、私は切り出した。
「あの……もう一度チャンスをくださらないでしょうか!?」
「へ?」
「チャンスを……! チャンスを……!」
みっともないのを承知で、何度も頭を下げる。
罵倒されるのも覚悟したけど――
「チャンス? なんの話をしてるんだい?」
「えっ、ウェルム様は私との婚約を破棄するつもりじゃ……」
ウェルム様は右手を唇に当て、ぷっと笑った。
「違うよ」
「じゃあ、いったいどんな用で私を……?」
「この間の婚約式、本当に素晴らしい経験をできた。それを伝えに来たんだ」
あまりに意外なことを言われ、私は呆然としてしまう。
「まずはそこのゴーレム、ドルクだっけ。いい腕だった。このところは僕とまともに相手できる人間も少なくなってきてね。あそこまでヒリヒリした戦いをできたのは本当に久しぶりだった」
なるほど、さすがは剣の達人。
ドルクの実力を知って、私との結婚にはメリットがあると思い直してくれたのかな。
首の皮一枚つながったと私はホッとした。
「それともう一つ。いや、こちらの方が本題というべきか」
もう一つって、まだあるの? なんだろう?
「君に惚れた」
「はい?」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
私の困惑を察してか、ウェルム様はもう一度言った。
「ベティ・マニージ。僕は君に惚れた。君と婚約できて本当によかったと思っている」
私には理解できない。
あれだけやらかした私のどこに惚れたっていうの?
「元々この婚約が、君のゴーレム技術目当てだったということは、君も承知のはずだ」
「はい、その通りです」
そのことに私としてもなんの異議もない。
私の存在価値はそこにしかないと思っているほどだ。
「だけどね、ゴーレムについて語る時の君、生き生きしていてとても素敵だった。自分はここまで剣術にのめり込めているのか、と自分に問いかけるほどに。君が朗らかに笑ってゴーレムについて語る姿に、僕の心はときめいた。この人と一緒になりたい。この人の心の中に僕がいるようにしたい、と心から思った」
「は、はい……」
ここまでストレートに想いを告げられると、いくら恋愛に疎い私も顔が火照るのが分かる。
「でも、ご両親はなんと? 婚約式の時は怒ってましたよね?」
「説得したよ。ベティと結婚できなければ、こちらから縁を切るって」
「ええっ!?」
ウェルム様の家としても、この人ほどの逸材に抜けられるのは痛いだろう。
いやはや、剣の達人らしい力ずくの説得だ。
「だから……これからもよろしく」
「こ、こちらこそ……」
「いつかきっと、ゴーレムに向いてる君の心を少しでも僕の方にも振り向かせてみせるよ」
そう言って笑うウェルム様の顔はまるで太陽のようで、私もこの瞬間、やっと分かった。
ああ、私、この人のこと好きなんだ――と。
ほぼ「ゴーレム」一色に覆われていた私の心に、初めて誰かが入り込んだ瞬間かもしれなかった。
そして――
「いやぁ~、婚約破棄されなくてよかったですネェ!」
ドルクの声に、私も微笑みを返す。ウェルム様もうなずく。
ドルクにも迷惑かけたな。せっかくの練習が無駄になっちゃったけど、無駄になってくれて本当によかった。
***
その後、私とウェルム様は無事結婚した。
シュヴェート家に嫁いだ私は、相変わらずゴーレム研究を続けている。
ウェルム様はというと、ご自身の剣士団を率い、ドルクとともに王国中を駆け回っている。
盗賊団や山賊団をいくつも壊滅させ、国家レベルの危機を救ったことさえある。
数多の武勇伝を生み出し、今やウェルム様とドルクは王国最強のコンビなどと称されている。
なんだかドルクにちょっと嫉妬してしまう。
私は私で農業用ゴーレム、工事用ゴーレム、防衛用ゴーレムなどを次々に開発して、領地の発展に貢献している。
お互いすっかり忙しくなってしまったけど、ウェルム様と心は通じ合っている。
だから一緒にいられる時は、お互いにその時間を宝物のように大切にする。
「戦場に身を置いている時は、君のことを思うと力が湧いてくるよ」
「私もよ。あなたを思うと、ゴーレム作りで行き詰まった時も頑張れちゃう。だけど無理はしないでね」
「ああ、分かっている。ドルクもついているから、どうか心配しないで」
「ええ」
こんな私たちに、横からドルクが優しく声をかけてくれた。
「お二人が幸せそうなところを見ると、私も幸せでス」
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。