第七話 〜残酷〜
第一節 不運な運命
太陽もあれから二年が経ち、近くの公立高校に進学した
もちろん友達の雪と雪も同じ所に進学している
家では子猫のクロが住んでいるものの、気ままだからどこにいるか分からないし、何より桜咲さんとは子猫を飼う話の時以来、話という話をしていない
だから太陽にとって唯一の楽しみは友達のいる学校になっていた
特に入学式の時に一緒の一年Aクラスの名簿欄に三人の名前が載っていた時はすごく喜んで
「これからもよろしく親友」
と笑顔を見せ合い今後の生活に夢と希望を膨らせていた
そんな仲のいい二人の友達との学校生活は、入学をしてから一ヶ月経ったある日、一瞬にして崩れ去ってしまった
まさにその出来事は、太陽のなにかが悪かったからと言うわけではないが、強いて言うならそれは太陽の不注意と不運が招いた事だと言える
その日は日直の仕事でゴミ出しをしないといけないのを忘れてて、少し慌てながらゴミ捨て場に向かっていた
そんな時、階段近くの曲がり角で誰かとぶつかった
「すみません、前が見えづらくて」
すぐにそう謝り当たった人の顔を見て驚いた
そこにはこの高校で〝不良の親玉〟と言われている男が立っていたからだ
そのことに気づいた太陽はすぐに慌てながら
「本当にすみませんでした」
と丁寧に謝り直したが遅かった
すぐその取り巻きに囲まれて、ボコボコに殴られてしまった
取り巻きたちは調子に乗った罰だと、見せしめの意味を込めて殴ったらしい
その日以降、太陽は事あるごとに呼び出されては殴られた
しかしその取り巻きたちはそれだけでは収まらず、それを見て怯えている生徒にも
「お前らもやれ」
と強制的に参加させ太陽を殴らせた
そんな生徒たちもいつのまにか〝自分がやられないために〟という考えのもと自主的に殴り始めるようになっていた
先生に助けを求めようとしたが、この高校の先生でも不良の親玉と言われている彼を恐れて、一切対処してくれなさそうな気がして
その行為はどの学校でも起きかねない、いわゆる〝いじり〟と言われるくくりの中に収まってしまった
そんなある日殴られた太陽をかばおうと、雪や雪がクラスメートの前に立って
「これ以上、こいつをいじめないでくれる」
と二人は声を揃えて言った
その時の目は殺意がこもっていて、その場にいたクラスメート全員怯えていたが、二人を巻き込んでもしものことがある事を恐れた太陽は
「二人ともありがとう、でも僕は大丈夫だから」
と笑顔で近づきながら
「本当に大丈夫だから、二人ともお願い」
と巻き込みたくない気持ちを、訴えるように二人に吐き捨てた
二人とも太陽のその気持ちが伝わったのか
「わかった」
と一言だけ言ってその場を離れていった
そんな〝二人とクラスメートの衝突〟はあったが、それでも太陽への〝いじり〟と正当化されている行為は無くならなかった
そんな毎日をくり返す中でも友達の二人がいる事が支えになり学校には行き続けていた
また二人は外でだけは普通に接して、学校ではなるべく他人のふりをするように立ち回ってくれた
そんな事もあって学校に来ていた太陽のことが、気にくわないのと自分の保身のためにクラスメートの奴らは余計に太陽を〝いじり〟まくった
しまいには他クラスの子も一緒になって太陽のことを〝いじり〟に来るようになっていた
悲劇が起きたのはそんなある日だった
いつものように学校でいじられた帰り、雪達に支えられるように太陽は家に帰った
〝今日は一段と殴られていた気がする〟
そんな事を考えながら太陽は、分かれ道で雪達と別れると家の方へと歩き始めた
「帰り遅くなっちゃったな」
と溢しながら太陽は家に着いた
家に着くとすぐに太陽は自分の目を疑った
目の前には他クラスの男子数名が玄関の前に立っていたからだ
「家にまで来るなんて」
と溢しながら恐怖と絶望が胸を支配したいた
そんな太陽に気づかないのか笑いながら、手に持った何か光るものを地面に振り下ろしていた
その光り物が鉄パイプのようなものだと認識でき始めるとともに、太陽の目の前には地獄が映った
「な、なにしてるの」
持っていた鞄を肩から落とし呟く
ようやく気づいたのかその声に
「遅かったな、君が来るの遅いから遊んでたんだ」
と笑いながら答える彼らの下には赤く血の海ができていた
その中心にはとても弱々しく倒れこむクロの姿があった
胸が締め付けられる、そんな感情が太陽の気持ちを支配していった
それが次第に怒りに変わり
「お前ら、ふざけるな」
とこの付近一帯にまで聞こえるような大声で叫び、今にも目の前の人を殺すのではないかという程の殺意を放つ
その気迫に気圧されたのか目の前にいた彼らは、悲鳴をあげながら後ろの方へと倒れ込んだ
そんな空気の中から
「抑えろ」
と一言やる気のない声とともに、太陽の肩に優しく手を置く人影があった
そのやる気のない声の方へと振り向いた太陽は、そこに冷たい目を彼らに向ける桜咲さんがいた
「君たち、俺の家でなにをしている」
そう桜咲さんは目の前にいる彼らに問いかける
その言葉に彼らは〝どうゆう事だ?〟と言わんばかりの驚いた顔をしていた
それもそうだ、両親を失った太陽の家に行ったはずが、そこに知らない人が来て『俺の家でなにをしている』と聞いてきたのだから、それは意味がわからなくなるだろう
「何言ってんだ、お前、だってここはそいつの家だろ」
と少し震え気味に聞き返した彼らに、桜咲さんは一つため息をこぼすと
「質問したのは俺だ」
と子猫を飼う時に一度見せた、震えが止まらなくなるような殺意を放ちながら彼らに言い返した
それを見て戦意を失った彼らに桜咲さんは追い討ちをかけた
「君たちがやった事、それは犯罪だぞ、分かってやっていたんだろうな
子どもなんて言い訳通じると思うなよ
それも警察である俺の家でするとはいい度胸だな」
その言葉を聞いて戦意をなくしていた彼らは、まるで死刑台に登る囚人のように絶望した姿を浮かべていた
太陽はそんな彼らを横目に走ってクロの所へ駆け寄った
「クロ、クロ、しっかりしてクロ」
そう呼びかけながら近づいたが目の前にいたクロは、内臓などが飛び散って見るも無残な姿になっていた
そんな光景を見た太陽の心には怒りと悲しみ、そしてクロを失った喪失感でいっぱいになった
「クロ…」
そう呟いた途端涙が溢れ出しその場で泣き叫んだ
その姿は両親二人が死んだあの時のような、大粒の涙を流しながらひたすら泣き叫ぶ少年のようだった
そんな悲しみに暮れる夕日が太陽の背中を照らしながら沈み始める
辺りが暗くなる頃には桜咲さんが呼んだ警察の人に彼らは連行されていった
そんな中泣き止んだ太陽はしばらくクロの近くから離れられずにいた
そんな悲劇の長い一日が終わっても明日は残酷にやってくる
太陽は家にある木の根元に植えたクロの墓に
「行ってきます」
と手を合わせながら呟くと学校へと向かった
桜咲さんは〝休んでもいいんだぞ?〟と言ってくれた
しかし太陽は〝いつまでも後ろばかりは見ていられない〟と自分に言い聞かせていた
だから、前に進むためにも、学校へと行くことを決めたのだろう
〝クロは死んだけど心の中では生き続けてる〟
太陽はそんな思いを胸に、今日もあの通学を歩くのだった




