第三話 〜ホームルーム〜
第一節 小さな変化
その一日はいつものような〝いじり〟は無かったが、クラス全員の顔からは〝悲壮〟で〝死刑〟を待つ囚人の様な〝重たく暗い陰〟が見える
そんなクラスの時間はあっという間に過ぎ、とうとうホームルームの時間となった
「それじゃあ、まず簡単に事情を聞こうか」
そう話を始める担任の先生は、クラス全員に対して〝失望〟の目を浮かべている
その目を見てみんな口を紡ぐ中、雪が手をあげる
「じゃあ僕が事情を話すよ
このクラスの裏の顔も含めて…」
と切り出し、これまであったクラスの〝いじり事件〟について語り始めた
途中、雪の話を否定する声が出たが担任の先生が
「今は雪の話を聞いてるんだよ?
反論なら後から聞くから話の腰を折るな」
と強く睨みながら言い放った為、その後は誰も雪の話に横槍を入れる者はいなかった
その後、雪がこれまでの全容を言い終えると、担任の先生はため息を一つ溢す
「はぁ、、、そうか、分かった
雪みんなの目がある中でよく話してくれたよ
じゃあさっきの話で反論ある奴、答えてもらおうか」
と問いただすような口調でクラスに投げかける
それを聞いてやっと〝いじり連中〟の一部が口を開いた
「私たちは〝いじめ〟なんて一切してません
太陽くんを〝いじって〟遊んでただけです
たしかにいき過ぎた事があったのも事実ですが…
それでも今日の朝それについて謝罪したんですよ」
「そうなんだよ、それなのに太陽が謝罪する俺らに怒鳴るから、ちょっと言い争いになってさ」
「だから雪の言ってる〝太陽を陥れるような悪い事〟なんて一切して無いんだよ」
と〝よくもまぁそんな事が言えるくらい〟呆れ返る程の言い訳を並べる
そこに余りにもこれと言った〝正当性〟が無いのが余計、見ていて呆れる程だ
担任の先生も何となくそんな彼らを見て、哀れみに似た目をしていた
そんな空気の中一人の生徒が手を挙げる
それは余り目立つ事をしない山道 紅葉だった
手を挙げた紅葉はすぐに淡々と
「先生、こんな話し合い意味あるの
もうこの辺でいいんじゃないかな
どうでもいい話に付き合う時間もったいないし
・・・そもそもさぁ、僕に関係ないし
関係ない事でわざわざ時間取られるのって、僕気に食わないんだけど」
と答える
その言葉を聞いた全員が、淡々とした紅葉に殺意と似た目を向ける
「お前がそれを言うか
俺らと同じで、いやそれ以上に太陽に酷いことしてたお前がさぁ」
と一人のクラス男子が溢す
するとそれに便乗してクラス女子の一人も
「そーそー、どちらかと言うと私らより紅葉の方が〝いじめ〟してた感じなんですけど〜
私らなんて全員でそれ止めたくらいだし〜」
と自分を棚に上げて答え始める
それを聞いた太陽は『確かにクラスの大半が言ってる事は〝半分〟は正しいけど…』と、ふとあの日の事を思い出していた
あれは〝罰あり鬼ごっこゲーム〟で紅葉が太陽を捕まえた時の話だ
今思い返しただけでも〝恐怖〟が蘇る出来事である…
そして滅多に参加しない紅葉が、唯一参加したものでもあった
それは確かに〝いじり〟の範疇を超え〝いじめ〟よりも醜悪なものだった…
つまりクラスの全員は自分の事を〝棚に上げて〟一番ひどいあの〝事実〟を責めているのだ
確かにその時〝いじり連中〟はそれを止めている
つまりは〝いじり連中〟にとって、言ってる事に嘘は一つも無いのである
それは彼らが助かる為に出した〝一人の悪者〟を作る〝自衛本能〟の結果と言えるだろう
しかしその〝いじり連中〟の会話の間に
「ふざけるのもいい加減にしろよ、ボケどもが」
と低く冷たい透き通る声が教室中に響く
その声の方向にクラス全員が目を向けると〝いつもの子どものような笑顔〟でこちらを見ている〝雪〟がいた
雪はいつも何考えてるか分からないけど、憎めなくて優しくて無邪気な子供の様な奴だ
しかしクラス全員が目を向けた先に、いつもの〝子どもの様な雪〟はそこにいなかった…
いつものような〝笑顔〟を浮かべながらも、あの低く冷たい透き通る声で
「紅葉が君たちの〝いじり〟と言うのに参加したのは全部で約二十三回、全体の一割にも満たない程だよ?
そのうち二十回は見て見ぬ振りで、二回は面倒くさそうに周りに合わせてやり過ごした分ね?
で、最後の一回が君らの言う、紅葉が〝いじめてた〟と言った〝クラス全員〟での太陽を〝いじめる為〟の、あの〝鬼ごっこ事件〟だよね?」
と投げかけるように答えると、笑顔が消えて薄らと、瞑っていた目を開く
そこには〝みんなの知る雪〟はいなかった
ただ〝恐怖〟それしか感じられない
そんな表情にクラスのみんなも、あの担任の先生ですら固まっている…
そんな表情のまま雪は
「あれは最初君らが始めたやつで、やり方はともかく紅葉の行為は少なくとも太陽を守る意志を感じたよ…
それに比べて君らがしてきた太陽にたいしての〝いじり〟が約八百八十二回
全て〝悪意〟ある暴行、暴言、一方的な〝支配〟だ!
それを棚に上げて紅葉を悪く言うなんていい度胸してるよね?」
と言い終えるといつもの表情を浮かべて
「まー僕も、いつも見て見ぬするしか無かったその一人なんだけど〜
ずっと言ってきたよね太陽が帰った後で?
もしも〜太陽が心や体が死ぬ様な事があったら〝僕は君たちを許さないよ〜〟って!
後は〜、そうそう
太陽を助けたい気持ち有りながら、自分がそうなりたく無いから参加するのも〜〝同罪〟って言うだよ〜僕も含めてね〜とか〜
後はね〜
見て見ぬ振りする僕や他の連中も〝同罪〟じゃ無いかな〜なんてのも言ったよね〜
あとあと、君らがやってるのは〝犯罪〟で〝死刑〟にあたるほど怖いものなんだよ〜
て言ったりもした事あったよね〜」
といつもの子ども口調で話す
クラス全員の反応を見るに、どうやら一言一句、同じ口調と言葉で説教していたらしい
雪の独特のあの子ども口調は、彼らの記憶のどこかに残っていたものを思い出させたみたいだった
その言葉がさっきの〝いつもと違う雪〟と重なり言葉に〝恐怖〟と〝重み〟が加わっている
さっきまで散々、紅葉に何か言ってた連中も顔が青ざめている
親友である太陽やあの雪ですら少し雪が〝怖い〟と感じていた
いや、そもそも正確に太陽が〝いじられた回数〟と〝参加していた回数〟そして〝それにどう関わっていたか〟まで全て把握している雪はもはや〝異常〟にすら思える程だった
そんな雪の一言で静まり返ったホームルームの時間は、静かに流れていた
先生も雪のあんな一面は見た事がないのか、顔から〝恐怖〟の表情が読み取れる
それはいつも温厚で優しい雪が、本気でキレた事を意味していた
〝大人しい人ほど怒ると怖い〟
とはよく言ったものだ
その日のホームルームの時間はその後、誰も言葉が出なくなり沈黙が続いた為、担任の先生が
「みんな、今日の事をしっかり考えて、明日の朝にもう一度話し合う時間を取る」
と言う事で解散になった
話が終わった後、数名が通り際に〝舌打ち〟をする
もちろん軽く謝って去る人もいたが、雪が帰る用意を済ませ、太陽を誘うとすぐに周りも散るように帰っていった
太陽も近づいてきたクラスメイトが〝面倒に感じていた〟タイミングだったので、そのまま〝雪〟と〝不機嫌な子どものような表情の雪〟の三人で一緒にその日は家に帰るのだった




