第二話 〜言質〜
第五節 謎の青年
…気がつくと太陽の目の前には空が見えて、背中には地面の感触があった
ついさっき、確かに崖から落ちたはずなのに、太陽は宙ではなく地面に寝転がっていたのである
崖を落ちきった様子はない
ただそんな横では、さっきと同じ呼吸音がしていた
「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ」
それを聞きながら太陽は〝こいつは何しているだろか〟と思いながらも、今度はすぐに立ち上がり
また崖から一歩を踏み出した
「・・・」
やはりまた太陽は空を見上げながら地面に寝転がっていた
そんな状況でも、少し頭を冷やして冷静になる太陽に
「お前バカなのか、いやバカだ
助けてすぐに崖から飛び降りる奴がいるか
声かけてるのに、相手の話を聞く事もしないし
呆れて何も言えないわ」
と青年が声をかけて来た
〝呆れて何も言えない〟と言う割にはよく喋る
太陽はそれに対して嫌そうな表情を浮かべているが、こう言ったのは基本的に〝自分の話を聞いてもらう〟まで解放してくれない〝タイプ〟である
つまり太陽自身がいくら飛び降りようと、このままでは結局止められて〝死ねない〟のである
「・・・はぁ」
無言の後、太陽は一息溢すと
「分かりました
もう死にませんので帰らせて下さい」
そう青年に太陽は告げた
すると青年は
「そうか、そうか、分かればいいんだよ」
と明るく笑顔で答える
太陽はその青年が腕を組みながら、頷き答える姿を横目に〝猛ダッシュ〟で崖に飛び込んだ
…しかし太陽はまた、地面に寝転がりながら〝あの綺麗な空〟を見上げていた
意表をついて崖に飛び込んだはずなのに・・・
そんな不思議な現象に太陽は〝とんでもない者〟に目をつけられてしまったと、憂鬱になっていた
これはどんな手を使っても〝死ねない〟と諦めながら〝仕方ないので少し話を聞いてから、この場を去ってもらう事〟にした
とりあえず太陽は
「わかりました
たしかに声を掛けられて、無視するのは良くないですよね
話を聞きますから話してください」
と催促する様に青年に話すよう促した
それを聞いた青年はさっきまでの行動のせいなのか、いきなり大人びた態度になった太陽に驚いていた
しかし青年はすぐに、その態度をやめると起き上がりながら
「なるほど、なるほど
〝話してください〟か、、、
言質はとったからね」
と太陽に指をさしながら笑みを浮かべた表情で呟いた
太陽は面倒な人が話しやすい雰囲気を作ってしまった事に、少し後悔しながら〝その青年の姿〟がどこか〝雪〟に似ている気がした
そんな太陽をよそに青年は
「さてと何悩んでるかは知らないけど、こんな所まで来て、どうして自殺なんて考えたの
死ぬなんて馬鹿だと思うよ」
といきなり〝お説教じみた〟言葉を言い放つ
その青年の表情はさっきまでと違い、とても真剣で清々しく見えた
しかし、青年とは今ここで初めて会ったばかり
つまりは他人なのである
そんな見知らぬ人に、いきなりそこまで言われる筋合いはあるのだろうか
そう思うとイラついて、太陽は自棄になって猛ダッシュで崖に飛び込んだ
・・・太陽はその光景に驚いていた
さっきとは違い、今度は地面に寝転がっていなかったからだ
それだけではない
そこにはさっき見た、目の前で話終えた〝真剣な清々しい顔〟を向けた青年の姿があった
その光景に驚いた様子の太陽に青年が
「そうそう、さっきも言ったけど〝言質〟はとったからさ、君は死ぬ事も、家に帰る事も
僕の話が終わるまで出来ないよ」
とイタズラっぽい微笑みを浮かべて答えた
そんな青年の言葉を聞きながら、太陽は起きた不思議な体験を振り返るが〝そんなに驚く様な事じゃない〟と思っていた
それもそのはずである
この崖に来るまでに見てきた光景からすると、これぐらい出来る奴がいても〝おかしくない〟と誰でも感じるだろう
だから太陽は今起きたそんな不思議な体験よりも〝初めて会った青年〟に〝お説教じみた事〟をあれ程まで〝言ってきた事〟に不満げな表情を浮かべていた
それを見ていた青年は
「なに、もしかして何か気に障ったかな?
そうだろ、そうだろ不思議だろうな
一定の状態に戻されるなんて」
と笑いながら呟く
それに太陽は
「いえ、そんな事ではなく
その前に話していた〝お説教じみた事〟を思い出してただ〝不満〟を感じていただけです」
と訂正する様に答える
それに対して青年は
「そんな事、、、か」
と少し悲しそうに溢しながら〝はぁ〟とため息を溢し終えると、再び真剣な表情で太陽の方を向くのだった




