第一話 〜始まり〜
第一節 不運な運命
少年の人生は、とても不運な出来事の連続で作られていた
少年は元々とても真面目な性格で、周りからも自然と慕われる体質だった
それはもう影を薄くしても自分の意志とは別に、周りの人を引き寄せてしまうほどに・・・
しかし、あまり周りとの関わりを好まなかったのか、いつも決まったグループの中にいた
そこが一番落ち着ける場所だったからだろう
だが、人以外にも不運を引き寄せる体質だった少年は、生まれてから今に至るまで、その体質のため沢山の人と沢山の不運を引き寄せてきた
思いとは別に〝それ〟は人生をいばらへと変えていく…
少年の生まれはとても古い田舎町で都会に出るまでに山を越えなくてはならない
自然が豊かといえば聞こえはいいが、悪くいえば何もないところなのだ
そんな村のある秋の日に生まれた
「オギャーオギャー」
元気な声が古びた家中に広がる
その声を聞いて扉を強く開いた中年の男は、嬉し涙を浮かべながら少年をそっと抱きかかえた
「この子が私たちの子どもか、なんて可愛いんだ」
そう呟く中年の男にクスクスと笑いながら、中年の男と赤ちゃんを見て笑っている女性がいる
そんな女性を横目に中年の男は声を上げて言った
「そうだこの子の名前は太陽にしよう
優しくみんなを照らす、そんな明るい子どもに育つように」
そう叫んだ後ではっと我に返ったのか
「どうかな?」
と女性に問いかける
女性は〝いいと思います〟という顔をしていたが、ふと何かを思いついた表情を浮かべ
「そうだ、でしたら読みを“そら”にしたいです」
と言い、女性は続けた
「太陽のように明るくみんなを照らし導くだけではなく、そんなみんなを受け入れられる広い心を持つように、、、そんな子どもになって欲しいので」
それを聞いた中年の男は
「よし分かった」
と言い近くにあった紙にペンで
〝太陽〟
と書くと周りにいる医者や親戚に
「この子の名前は太陽、空道 太陽だ」
と叫んだ
周りのみんなはそれを聞いて、笑顔を浮かべると拍手で祝福した
女性も〝いいと思います〟と中年の男に笑いかけた
それから八年の月日が流れ太陽が小学三年生になった七月下旬、夏休みが始まってすぐの頃だった
…両親が過労死した
亡くなった両親の仕事は小説家の父と、それを支える専業主婦の母だった
小説家の父はそこまで有名ではなかったが、数作品のヒットを出しては、稼いでいたそのお金を太陽の為に貯金しており、死んだ今となってはその遺産はとてつもない額になっていた
また生活を支えるために母親も影で頑張っていて、いつも家で出来る内職を見つけては黙々と作業していて、二人とも寝る間を惜しんで働いていた
結果的に過労死で二人とも亡くなってしまったのだ
それから少しして両親の葬式が開かれた
集まった親戚と名乗る人たちは、子どものために頑張りすぎたのだと口々に噂していた
太陽はそんな大人たちの言葉を聞いて
〝僕がしっかりしていなかったから…〟
そう自分を追い込んで、棺の前に向かうと、その目に涙ひとつ浮かべる事なく凜とした表情で座り込む
昔から働く両親の姿を見て育った事もあり、太陽のその姿はとても大人びて見えた
周りの大人はそんな太陽を見て、申し訳なさそうな表情を浮かべる者達と、大人びた太陽の雰囲気を気味がる者達に分かれた
両親の葬式を終えた後、太陽は偶然大人たちの噂話を聞いてしまった
最初に聞こえたのは女性の声だった
「あの子いつもああなのかしら
涙ひとつ流さずあんな凜とした表情で・・・
実の親が死んで悲しくないのかしらね」
その声に太い男の声が一言
「あぁそうだな、気味が悪いよ」
と答える
その噂を聞いた太陽はひとつの単語が耳に残った
〝気味が悪いよ〟
確かにそれは言い回しこそ違ったが、太陽にはハッキリと
〝君が悪いよ〟
と責められているように聞こえたのだ
その時言葉に出来ない悲しみに胸をえぐられた太陽は、その思いを胸にゆっくりと両親の眠る仏間へと行くと
「お父さん…お母さん…」
と口から溢し、目から涙を浮かべて棺に倒れ込み、始めて大きな声で泣いた
その声に気づいた親戚が、何事かと駆けつけた事にも気付かず大泣きする太陽の姿は、大人びたあの姿ではなく年相応の子供のような姿だった
しかし、この出来事はこれから起こる不運の始まりでしかなかった