第二話 〜距離〜
第二節 学校での日常
学校に着くと早速いつものように、決まった数名のクラスメイトが太陽を取り囲むように、周りに集まってきた
〝またきた、いつもわざわざ来てくれてご苦労様〟と頭の中で呆れながらも、彼らの気晴らしに何発か殴られる
下を俯きながら耐えている所を見ると、思った以上にこれが痛いようだ
ただ〝二番目の引き受け人になった叔父さん夫婦の虐待〟に比べるとはるかにマシと感じる
あの経験があったからだろうか、痛みに関してはそんなに苦痛を感じないようだ
多分、痛いのは心の方なのだろう
しばらくすると、まるで儀式のようなこの行為が終わって雰囲気が一変する
「おはよう太陽」
と元気よく誰かが太陽に挨拶をする
それにつられる形でいろんな人が
「おはよう」
「おはよう太陽くん」
と口々に太陽に挨拶をする
この急な変わりように、太陽が取る行動はいつも同じで
「うん、みんなおはよう」
と笑顔でそれに挨拶を返す
さっきまで殴っていた光景がまるで嘘のように…
この歪な空間が出来たのはクロが死ぬよりも前のことだった
発端はクラス担任や周りの先生達がこの〝いじり〟について、感づき始めた頃だった
それを解決するためにわざわざクラス全員で考えて、出した答えがこの結果だった
これは言い換えれば『太陽と、仲のいい感じの接し方を練習して、いざという時に大人達の目を騙すための巧妙な裏工作の一つとしてどうするか?』の結論だった
結果的にそれがいつの間にかこの歪な空間を日常に変えたのだった
「太陽、おはよう、また今日も殴られて…大丈夫か」
とそんな声が隣から聞こえてくる
その声の方を太陽が向くと、立っていたのは雪だった
周りの奴らは少しビクつくが特に何も言わないし、ましてや標的にしようとする者はいなかった
なぜみんなが雪を標的にしたり、その行為を止めたりしないのか?その理由は主に二つほどある
一つ目は太陽と本当に仲のいい友達がいた方が周りに怪しまれ辛いから
そして二つ目は一度クラスメイトの前で〝いじり〟についてかばった時の、殺意を向けてきた雪達に対する恐怖が残っているのが挙げられる
多分この中で二つ目の理由が一番大きいだろう
ただそんな二人がいる事で太陽自身は救われている
「ありがとう、大丈夫だよ」
と心配してくれている雪に返事を返す
一方で雪の方はあまり太陽の事を心配する雰囲気もなく椅子に座っている
ただあの雪が心配していないと言うと無理があるだろう
そんな違和感のある態度に雪がなったのは、太陽に責任があった
あれはクロが死んだ次の日
太陽は雪と雪に
「学校内ではなるべく、話しかけないようにしてほしい
二人に迷惑をかけたくないから…」
とお願いをした
それを聞いて〝ふざけるな、何言ってんだ〟
と今にも怒り出しそうな雪を横目に雪が真っ先に
「分かった、学校ではなるべく太陽に話しかけないように僕するね」
と笑顔で言った
すると次の瞬間その襟元を掴み
「お前、何言ってんだ」
とすごい表情で雪を睨み付ける雪がいた
しかしその言葉を放った瞬間に、表情が落ち着きを取り戻し、雪を地面にゆっくりと下ろす
なぜ下ろしたのか?理由はすぐに分かった
その時の雪の目から涙がこぼれ落ちていたからだ
もともと純粋な心の持ち主である雪は、太陽からのお願いの意味を理解していた
それは〝大切な友達を裏切る事〟
雪はその悲しみに涙を流してまで堪えて、太陽のお願いを聞いていたのだ
それを見た雪も雪にそれ以上は何も言えなかったが
「それでも俺は必要最低限は話しかけるからな」
と太陽に一言だけ強く言い放った
そんな事があったから雪はあの態度を取っている
つまり雪の今の態度や行動は、わざと太陽と距離を置くための苦渋の決断の結果といえる
その原因を作った太陽に責任が無いなど言えるはずもないだろう
ただ太陽にも〝雪があそこまで自分のことを押し殺せる〟とは思いもしなかったみたいである
だからこそ太陽には〝雪のその姿が危うく見えて心配になる〟ようだ
しかしそんな雪のことを心配しながらも、そんな事を言ってる暇がないくらい周りは太陽をいじり続けるのだった




